卒業してもあの場所で会いましょう
「そーゆーわけでシリウスん家集まりたいから幹事よろしく」
「どーゆーわけで俺ん家で、しかも幹事よろしくされなきゃなんねんだよ」
「だってやっぱシリウスん家集まっちゃうのがいいかなみたいな。そしたら必然的に幹事でしょ!」
「やっぱの意味もわかんねーよ!てかだったらジェームズとリリーんとこのがいいだろーが少なくともはなから二人は集まってんだし!」
「えー、でもいつも二人ん家じゃ悪いじゃない?」
「俺に対して悪いはないわけか?」
もちろんナイナイ、と耳にあてているモバイルの電波越しに、笑う声が揺れるさざ波のように届く。
卒業してからだいぶ経つ、顔を合わせる機会もめっきり減ったのに、がどういう顔で笑っているのかだけはあまりにあっさりと思い浮かんだ。絞めてやろうかと内心で沸いた気持ちは、現実相手が目の前に居ないため実現不可である。
なので結局は、携帯ごしでコイツとの会話に向きなおる。
「てゆーかまあ、シリウスんとこでもジェームズんとこでもどっちでもいいから適当にやっちゃってよ」
「適当にっておまえな、じゃあ幹事の権限でおまえん家にしてやるよ」
「えっあたしん家!?それは色々まずい、えーとそう、家庭の深い事情によって──」
「家汚ねーのか」
「汚いってねえそんなわけ、あるんです」
「あんのかよっ」
てかありきたりなツッコミ入れさすなよ、と思わず言い挟めば、
ふふふと妙な笑い声が聞こえてきての声はやけに愉しそうだった。
「てゆーかやっぱさ、あの二人するのかな結婚」
「ああ、まあするんじゃねーの」
「よねえ、むしろしなくちゃダメってかリリーのドレス姿きれいなんだろうなあ、てか見たらママは泣きます」
「…おまえ酔ってんだろ」
「まっさか、こんなとこで一人酒はさすがな私もしないわよ」
「こんなとこって。おまえどこに居んだよ」
「ンー」
海。と一言、簡潔に返ってきて。見たくなったから来てみたんだけど、あ、浜辺じゃなくて港の方なんだけどね、これがまたカップルが多くて参っちゃうのよー、などと声が続く。
おまえ彼氏全然いないもんなと、とからかい半分言ってやればうっさいアホシリウスと返され。返されりゃ更に言い返しの繰り返しに、つくづく学生の頃と会話のレベルが変わらないなと思わず笑った。
「1年の頃なんかさ」
「あ?」
「友達と部屋で、何歳で結婚したいかなんて話したりして」
「ふーん」
「卒業したらすぐとかみんなして言ってたんだけど、でもいざ卒業してみちゃうと無理だなーって思うよ」
「女子って1年でそんな話すんのか」
「まあ男子よかオトナだからね」
「おまえが得意そうに言うなよ。てか、まあ、あいつらの場合は特殊だしな」
実際、大人と呼ばれるような年になってみて幼い頃に思い描いていたようには自分が大人じゃないと、思い知る、
それも痛いくらいに…ようするにそのようなことを言いたいんだろう。
「そだね」
「そーだよ」
「うん、そーだ」
「なんなんだよ」
「はは」
なんとなく、ね。
みんなと一緒に歩いているような気がしてたから、卒業するまで。
だからそれぞれが持っている世界がばらばらになってその中で持つ顔というものがあって、そうやって少しずつ変わ
っていく。実際に少し、変わったやつもいる。その片鱗を見た時、相手の背景にあるものを思ったって仕方がないっ
てことはわかってる。こんな事を考える自体大人になりきれていない証拠なんだろう、たぶん。だから寂しいなどと、
思うのもバカげているけれど、ふと思い出すように、残像をつかむような切なさを覚えて。見ないふりをするために
日常の中に紛らわせる。そうやってドライにやり過ごしていく。
おおかたこのような内容のことを、ぽつぽつと零すようにおとしていった。というかいつも呑気そうにしてる
も、こんなことを思うのかと思った。
「あーいかんね。一人でこんなとこ来るもんじゃないね」
考えてみたらおセンチな行動しちゃっててうけるよ、と笑いながら言ってるこいつが、ふいに。
なぜだか、一体どんな顔をしているのか見えないことに、急に妙なもどかしさを覚えて。
「だったら一人で行くなよ」
「だー言ってくれるわね、相手がいたら一人じゃ来てないって」
「俺が居るだろーが」
「は?」
「俺が一緒に行ってやるよ」
「………」
「………、何だよ」
「いやさすがモテ男の言うことは違うなと思って」
「おまえな」
「シリウスって優しいよね」
「──いや優しいとか気持ち悪いんすけど」
「確かに優しいシリウスなんてきもいだけだ」
「あのなあ」
だっておまえ、何か変だろ。
そう言いかかって、こいつが困るだけだと思い結局は留まった。
だいたい何かがなければ、急に「集まろう」などと言い出すわけもないのだ。
「じゃあさ」
「ん?」
「今度一人で行こうと思った時は、シリウスがバイクで2ケツさせてくれるっていうんなら誘ってやらなくもない」
「何様だっつの」
突っ込み、何だかんだと騒がしく言い返してくるからまた意味もない言い合いをする。そういってまたとりとめの
ない会話に戻って、そしてとりとめなく繰り返した。…きっとこれは、この先も変わらず繰り返し続けるんだろう。
こうやって何となく有る、形ない自分の中のわだかまりを他愛ない笑いに飽和して、日常の中に溶け出させて忘れた
気になって…いくつかは本当に忘れて、たぶん、それでいいのだ。
全員そろうことが少なくなった最近だからこそ、一人でも欠けていたらあいつはきっと笑いながらものすごく寂しが
るんだろうとわかった。だから、それくらいなら、全員集めるくらいのことは、意地でもしてやろうって思う。
何故か、そう思った俺は最高にバカなんだろう。
モバイルで会話ってゆーシチュ萌え笑