今日はたまの休みであって一日を有益かつ素晴らしく使うべきだ。
というわけで寝て過ごそうと決め込んだ矢先ベルの音に反応してけだるく玄関を開ければ、そこには有り得ない顔がある。
(赤毛に緑目…)
たった髪の毛と目だけでこれだけ自己の主張が強い女など、知っている限り一人しかいないのだが。
親友の悪影響が及んだのかはたまた夏の暑さに脳みそがやられたのか。にこにこ笑っている顔を、とりあえず悪い夢でも見ているのだろうと判断を下し間1秒。静かに丁重に、幻覚を締め出し、ドアを閉める道を選び取った。
「──てちょっと、何閉めようとしてんのよっ」
粛々と自己完結しかけた途中覚えのある声と口調によって軽く醒めると、再びドアを開けその姿をじっと見下ろす。
「うーわー…本物?」
「寝ぼけてんの?」
「何でいる…っつーかここ知ってんの」
「もちろん聞いたからよ」
「俺、今日休みなんで、お引取」
「まさか帰れとは言わないわよねー?」
にこにこ笑いながら醸し出されるオーラが尋常じゃないのは気のせいでないだろう。レディーに茶ぐらい出せよって。言ってくるリリーに、どこにレディーがいるってと周囲を見渡せば上がり際ご丁寧にも足蹴りを頂いた。
「へえ。お坊ちゃんはどんなとこで一人暮らししてるのかと思えば完璧安アパートね」
「たり前だろ。いくら資金提供してもらったからって、いつかは底つくし働かなきゃなんねーし」
「…うわあ、シリウスのくせに偉いすご〜い」
「なんかその褒め方ムカツクんですけど」
「そいでベッドの下にはエロ本があると」
「いやアホか。隠す意味もねーし。だいたい何しに来たんだよ」
そこまで言えば、よくぞ聞いてくれましたとばかり、手に持っていた袋を得意げに抱え上げる。
「一人じゃどうせろくなもの食べてないだろうと思って」
作りに来たのよ、と。
ひょうひょうと発せられた言葉に一瞬耳を疑った。
「なによ」
「…いやおまえ料理できんのかと思って」
「おー失礼ね。私を誰だとお思いで?」
不敵なコメントを残し備え付けの狭いキッチンに材料がどんどん広がっていくのに。
「──てかそーじゃないだろ」
「だからなにがよ」
「こーゆー事は特定の奴にだけしてやれって」
「何だと思えば。ちっちゃい男ね、そういうことは特定の相手持ってから言いなさいよ」
「…いや微妙に言うことずれてません?」
「あのね、だいたい、心配だと思ったらしてあげるのが当然じゃない」
バカかと言わんばかりの様相で。
この辺の認識の違いに妙に疲れを覚えた。むしろ押しかけ女房?とか思ったけども通じやしないだろう。こーゆー時、誰に対してもお節介を通り過ぎて素で無防備すぎるのがちょっとどうかと思うんですが。
邪魔だから向こう行けと追い払われて、とりあえずジェームズを呼ぶかどうか思い悩んでおく。ただし説明を求められたり後々面倒そうだ。それじゃあ最も無害なピーターをと思うが、家が遠すぎ。リーマスは、色んな意味で後が怖いようなと。
考えた直後、不吉な煙がもんもん沸くのと同時に突如爆音がしてリリーがこっちに飛び込んできた。
「だーおまえ!何したんだよってか皮むきながら来んなよ!」
あぶねーだろと包丁を取り上げてテーブルに置いていればリリーはあははと笑う。
「いや〜びっくりしちゃった」
「ちゃった、じゃねーだろうが!」
「大丈夫よ、応急措置はとったから」
「応急…ておいっ」
とりあえず台所を見てみれば壁が焦げ炭になった食料が散っているとゆー有様で。
「人ん家壊すなよこれ一応貸家なんだし」
「まあなんか火力が間違ったのよね」
「間違えすぎだろ!ってか料理得意な奴がふつーこんなにするかよ」
「魔法使い式キッチンがよくわかんないのよ。もういーわよマグル式でやるから」
逆ギレかと突っ込む気力もなく。ならはじめからそーしてくれと額に手をあてれば、突如顔の横を包丁が直進飛行してかすめ焦げた壁に突き刺さる。
「──おまっ…!包丁はそう扱うなって小さい頃教わっただろーが!」
「だって手元になかったんだもーん」
「もーん、てあのな!」
軽いジョークよと杖先を回し包丁を引き抜いたリリーは、何事もなかったかのように野菜を慣れた手つきで刻みはじめ。まじで料理できたのかとかぼんやり思っていればふいにリリーは言った。
「あそーだ。今ので肉足りなくなったの。買ってきてくれない?」
「………実は嫌がらせしに来たろ」
普段より長く疲れそうな休日はまだまだ終わりそうにない。
「何言ってんの。あんたが一人で寂しがってる気がしたから来たのよ」
リリシリに見えるけどシリリリなんです。彼女のする事は全て好意なんです。