中庭からやってきたリリーの様子が妙だと、シリウスは犬の嗅覚で勘付いた。偶然合流したに過ぎないし、気遣う義理も理由もなかったが(少なくともそれは自分の役目ではないと思っている)結局気になったことをすぐ聞くのがシリウスだ。
「おまえ何かあった?」
「別に何もないわよ」
赤い髪をゆらゆら揺らし、正面を見据えたまますたすた歩く姿に。やはり妙だと気がつく。そうやって自分に関することを、他人に触れる前にすっぱり切り捨てるのは彼女のやり方らしかったが。
「明日雨降らすなよ」
「しつれーね。それどういう」
リリーが言い切る前に、ぺしっと小気味良い音をたててシリウスはリリーの額を叩いた。
「ちょ、乙女の顔になんて事を…!」
「まあ、元気出せって」
不意打ちだったのだろう、リリーは緑の目を丸くさせて立ち止まり、歩き続けていたシリウスは置いていくぞと声を掛けた。
「よ、余計なお世話…」
「へいへい」
小走りに追い付いてきたリリーの方が普段よっぽどお節介だって、シリウスは思っていたが、それ以上に議論も深追いもする事もなければ、リリーは眉をひそめつつ微笑した。あるいは困ったかのような。
結局この、動物的直感で他人のやわいポイントを無自覚についてくるところが最も、シリウスをプレイボーイにプレイボーイたらしめる所以なのだが、本人は案外気付いていない。
「さっき、告白されたのよね」
不意な打ち明けに、瞬間シリウスの脳裏に悪友の姿がかすめていってアイツ早まったのかと思う。
そうなった場合この女はくってかかるか、極端に避けるかの二つに一つだと思っていたから、頭を抱えたくなる衝動をこらえて誰にと聞けば、おおよそ知らないような名前が挙がった。
一連のリリーの口調と態度からして、彼女が何て答えたのかは明白だったから、とりあえずこちらとしては一安心だ。
「はー、どうしていつもこうなるかなあ」
「…?何が?」
リリーは少しばかり弱ったような声色で、こんなしゃべり方をする奴だったかと、危うくどきりとなる。
「すごくいい奴だったのよ、話も面白かったし。だからいい友達だと思ってたんだけど、どうしてか最後はいつもこうなんのよね。しょーじき複雑…わかるでしょ?」
同意を求められて、咄嗟に曖昧な肯定を返す。リリーがもてる事は知っていたし、またシリウスも然りだからこんな事を言うのだろう。別に、シリウスの場合近づいて来る女子はもともと何らかの思惑がある事を知っていたから、最終的に告白をされたって驚きなどしないのだけども。
「ずっと友達ではいれないものかしら」
「あー…どうなんだろな」
思わず視線を宙にさ迷わせ、とりあず胸の内で親友に合掌。
つまりはリリーは、現在色恋沙汰には全く興味がないという解釈に行き着き。
そんな女に惚れて大変だなあと思う。
とはいえ、そんな女を落としてみるのも悪くない、という邪な気持ちも、湧かなくもなく。
はじめ、ジェームズが惚れたという女がどんな奴だろうって、それだけで気にかかる理由は充分だったわけで。むろん親友を裏切る気などないが、シリウスの容姿はじめ成績や、家柄…それだけのものを知ってもなお。ごく自然にそれでと一蹴してのけたリリーに、興味を持たなかったといえば、それは嘘になった。
「ああ、でもシリウスは本気でいい友達だと思ってる」
さいですかと、永久友達宣言?思考の矢先に真摯に言ってくるから逆に何とも言えない、微妙な気分になりつつ。
「嘘じゃないって」
「そりゃあどーも」
「うわ、すっごい棒読みじゃない」
「俺生まれつきこんな口調なんで」
「それ絶対嘘ね。もっと喜びやがれ」
やがれってオイ、と。こんな女のどこがいいんだかと言えば、ムカツクわねって。言葉とは裏腹に笑いながら返事をよこされる。沈んでいたかと思いきやケロっと笑っていて忙しい奴だなと見やると、何を思ったかリリーはにっこりほほ笑んでいた。
「でも本当、あんたは他の奴と別だと思ってる」
その笑顔と言葉にうかつにも、喜びそうになっている自分がいることは絶対に言えないとシリウスは思った。