「にしてもこんな課題勘弁してほしいよ」

おもむろに嘆いたのはロンで、番号のふられた鉢植えを覗き込みながらふてくされた顔を見せた。

「しかも二人一組で、相方はくじ引きときたもんだ」
「なによロン、まるでその”相方”が気に食わないとでも言いたそうな口ぶりね」

”相方”であるハーマイオニーは走らせていた羽ペンを止めると、レポートから顔を上げた。当然のことながら形の良い眉は不穏につり上がっている。

「なんの因果か、学年一優秀なグレンジャー嬢と組めて喜んでたんだよ」
「今の、言葉通りには聞こえないんだけど」

半眼でロンを見遣りながら、ハーマイオニーはじょうろを手に取ると、その問題の鉢植えから伸びる草に水を与えた。

茎が太く、花弁の近くから葉が垂れ下がっているこの奇妙な草は自然と人間の上体を想像させる。事実その生態も奇妙で、普通花がやがてあるいは実となり種子になるはずなのに、根の近く、土の上に種子ができるという、どんな仕組みなんだと問いたくなる習性を持っていた。その姿はさながら人間の妊婦のごとく。それが由来となってか、種はコドモと呼ばれ、通称コドモ草と言われている。

「…で、このコドモ草…だっけか。薬草なんだよな」
「そうよ。特にこれからできる種、つまりコドモの部分が特に特効薬として用いられて、煎じて飲むの。私たちが今世話してるのもそのうち薬になるわよ。ていうか、レポート提出なのにそんなことも調べてないの?」
「そんな事も調べてなくて悪ーござんしたね。だいたい何が悲しくて得体の知れない草と、愛想のない仏頂面としょっちゅう顔合わせなきゃなんねんだか」
「なんですって?」
「なんだよ」

そのまま不穏な花火を散らして、おなじみ口ゲンカにもつれこむと思いきやタイミング良く通りかかったハリーによってさりげなく阻止というか予防というかされた。



「二人とも、観察の調子はどう?」
「ああ、もう変化ないし、毎日ふてくされた顔ばっか見せられるしでうんざりって感じだよ」
答えたロンのセリフにあえて何も言わなかったハーマイオニーは、かわりにロンの足を思いっきり踏みつけると尋ね返す。
「ハリーそっちはどう?確かネビルとペアだったと思うけど」
「こっちは順調、っていうか変化なしって本当に?だいぶ育ってもうすぐ収穫できそうだよ?」
にわかに信じがたいという顔をしたハリーの前で、もっと信じられないという顔をしたのは優秀なグレンジャー嬢ばかりではなかった。
ハリーの言ったもうすぐ収穫できるイクォル、種が育ってる。なのはさすがのロンでもわかる。

「おいおい、マジで」
「ちょっと待って、どういうことよ?」

手に持っていたじょうろを投げ出さんばかりの勢いで鉢植えを覗き込んだハーマイオニーは、レポートやら本やらをそこかしことひっくり返し始めた。原因は何だのかんだのと呟いてる隣で、ロンが横から口を挟む。
「ハーマイオニーが水やりすぎたんじゃねーの。根が腐っちまったんだよ」
そのセリフは、こと学問にかけて異常なほど完璧主義なハーマイオニーのキリキリした琴線に触れた。
怒ったボルテージが一挙に跳ね上がって、じろりと猛禽類もびっくりなくらいに睨む。

「なによそれ。私の育て方が悪かったっていうの?」

威圧するように、実際威圧的なオーラと低い声で一歩ずずいとハーマイオニーは進みでる。

「じゃあ聞きますけど。あなたは何をしたってゆーのよ。何の協力もしないで!」

だがまあ、ロンもその辺負けてはいない。

「じゃあ何だよ、こっちが全部悪いってゆーのかよ!」
「だってそうじゃない。じゃなきゃ何でコドモができないのよ!」
「それはこっちが聞きたい話だよ!」
「私はちゃんと真剣にやったわよ!」
「あーはいはい、そうゆーのは真剣じゃなくてお堅すぎるっていうんだよ!!」
「なんですって?!うまく育たないのはそっちの愛情が足りてないんでしょう!?」


二人が夢中になって口論を繰り広げる中、何事かと周囲に野次馬が(面白がって)集まってきてるのも知らず。
「この会話ってなんかすげーアレだよな」
「うんすげーよ、色んな意味で」
「まったく見せつけられちゃったよ」
ひそひそ声もしくはにやにや顔が周囲に増えていく中(後日からかいのネタにされるのは必至)、コトの事情を知らずに間から顔をのぞかせたネビルはびっくり驚いてハリーを見た。

「二人に何があったの?またケンカ?」

止めなくていいの?大丈夫?としきりに心配気に聞いてくるネビルとは対照的に。
一歩引いて二人を見ていたハリーは、しごく冷めた調子で答えた。



「放っておいていいよ」