監督生というえらく優遇されたゴージャスな部屋の内容よりも、部屋の持ち主自体が色々 と豪華な事はいかにもその男らしいと思えた。

別に性格が派手だとか言ってるんじゃなくって。

例えば容姿端麗だったり成績最優秀だったりクィディッチに秀でてたり、おかげで女子に 大モテだったり、まあ嘘みたいに心底至れり尽くせりな具合がという意味で。


トム・リドルという名前はすでに一種ブランドなのだ。


それ自体馬鹿げているが、そのブランドを手に入れるあるいは近づく事に優越する人種は もっと馬鹿だと思う。



その学校のスターであるところのリドル当人が、クィディッチプレイを終えてシャワーか ら上がってきたとかいう、所謂水も滴る貴重な姿を晒したのを。
けれど私は無感動にも部屋の中央から眺めながら、そいつの「喉が渇いたな」という呟き を何よりも聞き咎めてふと動いた。
他の部屋にはない、ご丁寧にも設置された冷蔵庫もどきから水のボトルを取り上げたリド ルの、そのボトルを見つめる。狙いを付ける。手を伸ばし。あっけない程簡単に奪い取れ れば、わざと渡さないように遠ざけてみせる。

この私の突飛な行動に、でも決して怒ったりしないリドルはただじっとキレイな顔で私を 見て気持ち悪いくらい従順な犬みたいな待てをして(本当はそんな奴じゃない癖に) じりじりと音がしそうな位の沈黙の後。さすがに痺れを切らしたのか先に向こうが苦笑し た。

「それ、飲みたいんだけど?」
「ふーん」
「ふーん、て」

ちょっと呆れた顔をしてまあいいけどと、他のドリンクを取ろうとしたのも遮り、ボトル を押し付ける。
瞬間の間。結局は押し付けられたボトルのキャップをひねってリドルがコクリコクリと飲 み込むのを見た。
当然だけどもリドルがよくわからないという顔をその前にしたことに笑いそうになる。


例えばリドルが水を飲むだとか、そういう事を私がひどく好ましいと思っているというこ と。
そういった事をこの男は一生わかりはしないだろう。


そう例えば喉が渇いて飲むだとかものを食べるだとか赤く血を流すだとか。
目の前の強大な知識と力を修める事に素直な感動よりも歪んだ笑みを浮かべる捻れた姿だ とか。
普段はおくびにも出さないそれらを。



完璧なものの横に並んで彼女きどりで喜んでられるのはやっぱり馬鹿と相場が決まって る。
あるいは馬鹿にしか務まらないのかもしれない。
少なくともあたしは、欲しいなんて思わないし。

何よりも。





肩を押されて、背にはスプリングの感触。ぎしりと、わざと音を立てるように腕をつかれて、 仕返しと言わんばかりニヒルな笑顔が浮かんだその見下ろす顔も。
正直嘘っぽくてこんな時にも、優等生の殻を被り続けるリドルの様相は実は滑稽だと思 う。笑える位完璧であることを重要視するこの男の、不意に覗く綻びのようなどうしよう もなく人としてダメな部分。あるいは生きているが故の生理活動だとか。

リドルが何より忌み嫌うそいつの「人間」味が私は何より好きなのだ。





されてばかりが悔しかったわけじゃないが、背中を思いきり強く引っ掻いてやれば顔をし かめたことにひそやかに笑いそうになる。
私の弱い爪で傷こそ付かないだろうが、ミミズのような醜い跡が付けばいい。すごくぴっ たりだと思えた。


だって、抱く抱かれるなんて、愛がなければただの動物的行為なのに。



そんな事にも気付かないで、あるいは気付かないふりをして、ここでこうしている私とこ いつは、たぶん本当は何者よりも愚かだ。