「──であるからして、」
「なるほど」
「どうだ」
「いいアイディアだ。久しぶりの合同修行か」
「では詳細について飲み交わしながらでも決めよう、とっておきの酒が入ってる。つまみは?」
「頼もう」
「俺は、ワイルドに丸のままセロリだ」
「では私は、エレガンスに丸のままキュウリを」
「…チャラついたつまみに興味はないと?」
「そうだ。素材そのものの旨さこそ美しい」
「つくづく、意見が合うようだな神吹」
「どうもそのようだな、火神楽」
がっしりと。何かが通じ合ったかのように、手を握り合う自分たちの師匠を遠巻きに見つめながらいやいや
さすがにちょっと付いてけない、とか内心突っ込んで白金は目の前の正宗に向き直った。
同意を求めようと思って目線をやれば、正宗は未だ師匠たちを真剣に見ていてその目は如実に、感動しました、って
語ってるからさすがの白金もほんの一瞬驚いて引く。でもまあ。正宗クンは盲目の師匠愛だからしょうがないよねって。
そこは即座に納得をし、自己完結もした。いや白金自身だって、師匠を敬愛していることに変わりはないんだけども。
「久しぶりに合同修行だって。ほんと久しぶりすぎて感動して泣ける」
「十代の頃以来だろ」
「何か。この年でまだ一人前って認められてないのかと思うといっそ、切なくなんない?」
「俺ァまだまだ師匠から学びたいことがあるぜ」
「や、まあ正宗くんはそーだろうけど……てかだったら湟神さん家も呼ぼうよ、湟神さん家も」
「てめーで掛け合え。つか、下心見え透いてんだよ」
あっは、正宗くんてばその言い方ヒドイなー、とか何とか言葉とは裏腹な口調で、白金は手元のグラスを器用に弄んだ。
バー『バレットイーグル』の日本店舗。パラノイドサーカスやら無縁断世やらの一件で海外には居られないと、
慌てて設けられたここが火神楽の拠点だったりするわけである。
まあぱっと見はごく普通に地下に潜ったバーだから、どうにも店内の燻し銀な雰囲気が骨に沁みてたまらないと、これまた
燻し銀な方々に愛されそこそこ繁盛しているようだ。が、本日むだに貸切なのは早速言うまでもなく。
「だって華はあった方が俄然いいじゃん?」
「そーやってあくまで一途ぶるかお前は」
「ぶるって何、ぶるって。俺はいつだってめちゃくちゃ一筋」
「とかいう奴がまさに今日、街中でどっかの女に殴られるかよ」
「…えっ、見てたの?」
「見たくもねーがたまたまテメーが居たんだよ!パーどころじゃなくてグーだったろ、オメー何した?」
「わー、ちょっとそんな痴漢が居るみたいな目で見ないでよ」
「違うのか」
「ひで、違うから!あれは勤めてた頃、付き合いでしょーがなく行ってた店の女の子の一人。偶然に道で会って、せっかく
だからお昼でも、って。すごい誘われたら紳士として断るわけにはいかないっしょ。女の子に恥はかかせちゃいけないよ」
「で殴られるオチなら世話ねーな。まあ無職なチャラ男じゃ救いようもねー」
「無職違うから!今は案内屋一本なだけだから!」
「つーかほんと何回目だよ、こーゆーの。一途が聞いて呆れらぁな」
「歴史に名を残す英雄は得てして女好きだったりするもんだよ」
「とか何とか言って自分、正当化すんじゃねえよ」
「今のはジョーダン」
「はっ、どーだか。だいたい、いつか神吹さんに見られたらどうすんだよ」
「いや、既に一回あるよ。でも俺に激似な人、って思われただけで済んだよ」
「──まじでか!?ンだそりゃ!!」
「日頃の行いがいいお陰でしょ☆」
「全力で否定してやる」
「えーっ。てゆーかこんな話してるからほんと会いたくなってきたんだけどみーおちゃーん!!」
「……」
「……」
「そこまで一途に想われてて湟神が羨ましい限りだな」
「………。」
「………、ンだよ?」
「えっ、だって何今の。まさか澪ちゃんに嫉妬?俺にどさくさ告白?」
「呆れて言ったんだっつーの!!」
地球外生命体見てますみたいな、すごい形相でそう、突っ込まれたから分かったわかったと白金は愉しげに笑いながら
正宗を往なした。
何かと酷い言われようだが実は、正宗が己を気にかけて心配してくれていることなんてちゃんと知っているのだ。
その彼の見えない熱血たるや矢張りは火の特性といえるか。まあ例えばどんな女の子に声を掛けられようとも。引き止め
てあげる手を、持たないのが自分で風の特性なんだろうけれど。
だとしたらどんなことがあろうとも、押し流れて行ける強さがあるのが水の性質なんじゃあないのかと。
ならば最後にはボクの所に流れておいでなんて。
思うけれど、今はまだ時期じゃない気がして言うことがどうしてもできない。できないでいる。
不意に有線のチューニングを合わせる音がして、ほんの数秒の間、誰もが知ってるポップスの歌手が「愛してる」の
陳腐な一フレーズだけ歌い上げて、再び雑音が混じってチャンネルが変わって。流れ出したのはいかにも古そうな、当時の
社会批判を歌詞にぶち込めているような洋楽のナンバーだった。さすがは火神楽さんだチョイスが渋い、渋くて痺れる。
でも英語な歌詞をいちいち追うのもめんどくさくって、そんなことより頭の中を巡って耳を離れない。愛してるのフレーズ
が。本当、陳腐でありがちで笑えた。アイシテル、なんて、
「愛してる、愛してる」
「…人の顔じっと見て気色悪ぃこと言うんじゃねえっ」
「期待しちゃったかい?」
「するわきゃねーだろ!」
「そこはしたとも、とか言って乗ってくれナイと正宗チャン」
「誰も乗らねーよ!」
「昔の話だけどボクのお師匠は乗ってくれたもんだよ」
「──なっ…マジでか!?」
あの超厳しいストイックな銀一師匠と、思いっきり猫被ってて、いやむしろ目立つだろう。といつも突っ込みたくてしょうが
なかった髪形の頃のプラチナがどんな顔してこのやり取りを交わしたのかと思うと、全身の温度が引いた。あらゆる意味で、こわい
気がする。
「そうか。それは愛と鞭だな。素晴らしい使い分けだ」
「っ師匠……!」
「そう驚くな正宗。聞き耳立ててたわけじゃない、通りかかっただけだ。だが、どれ、お互いいい弟子をうまく育てたもんだな神吹。ひとつ、昔話に花でも咲かせようじゃねえか」
「悪くないな。ならば酒宴の続きでもしようじゃないか、マイク忠勝」
「待て、ここでファーストネームはなしだ。弟子の前でくだけたのはなしだぜ、銀一オットぉ、俺までついつられちまった」
HaHaHaHa、とさすが海外上がりの笑い方で再びカウンターの隅へと身を落ち着けた正宗の師匠を何となく
二人して静かに見送った。ついで、そこはかとなく愉しげにお酒をしょぼしょぼやりだす所まで静かに見届ける。
「あー。何で今日澪ちゃん来ないんだろ」
「てめーは口を開けばすぐ澪ちゃんだな」
だったら呼んで来るなり何なり勝手にしろやと、正宗がもはや呆れ果てモードなのは今に始まった話じゃない。
いやいや、そーなんだけどね、とか何とか言いかけていい加減、白金もやんわり後を誤魔化した。だいたいこれ以上、正宗を困らせて
もしょうがないし。
そのくせ懲りずに愛してる〜のフレーズをいちいち歌ったら、こいついよいよ頭壊れたか、みたいな横目で正宗に見られて
白金はおかしげに笑った。だって澪ちゃんに届くかもしれないじゃん、えっ何そのもう呆れて突っ込む気もないみたいな感じは?
わかってんなら歌うなって、
斬り捨てるように返答されたがここは割りと本気なのだ。だって。
まあ本当はありきたりなラブだってロマンスだって大好物だし、大歓迎だ。
そんな、世界中駆け巡る陳腐なラブソングみたいに、自分の陳腐なラブも。いつかいつの日か。
彼女の元へ、風に乗って。
寄り添うように届けばいい。
「ラブソングに似せた生き様」というお題でかいた素敵プラ澪祭りの献上品でせた
それにしてもナル柚香ナル蜜柑あたりのナル岬とかぶりすぎてるのがっ笑(アいたいいたいいたい)