(※たぶん高校生とか卒業後とかそん位です)
(※※ちなみに蜜柑ちゃんはナルとママと一つ屋根の下でいつの間にか住んでます)








夜の帳は降るように下りてきて、不意に物足りなさを覚えて、一度覚えた感覚は眩暈のように内側から感情を掻き乱す から参る。
この正体が何かなんて。
突き詰めなくってもわかる、
───会いてえ。
そう、昔よりもずっと素直に正直に思えるようになってしまった今が、辛くはあった。でも比べようもないくらい幸福 だった。そうと思えるくらい変わった。あらゆるものが、変動して、きっとそれすら、圧倒的に幸せなことなのだろう けれど。
夜の空気は急激に冷たさを帯び始めていて、そう遠くもない時間、雨の到来を克明にして告げている。
肌寒さのせいでなおさら、他でもないあの温もりが恋しくなるからどうしようもない。
だからポケットの中の小さな機械を、無意識に取り出して。本当はこれでだって、もの足りないのだが。
それでも僅か、繋がれる事実がこの距離が、やっぱり満ち足りなくてどうしようもなくって、触れ合いたくて もどかしいと思って走る。















不意に鳴り響く携帯の音に慌てて、蜜柑は家の中を少し焦って探った。
流れ出すポップな森のクマさん、は本当に何気なく根拠もなく、それっぽいやろ、と二人で居たときに設定したものだった から、相手は言わずと知れて。
自室に放り出してあったそれを、おそらくは7度目のコール位の遠さでやっと手にすれば、とろいと可愛げもない第一声 が耳についた。


「とろいってあんたなあ、作業してたからしょうがないやろ、棗」
「どうせまたどっかに放ってたんだろうが、携帯」
「……うちがそんなだらしないこと」
「するじゃねーかいつも。どうせなら服にでも突っ込んどけよ、アホ」
「アホってなんやねん」
「アホはアホじゃねーか」
「アホってゆー人の方がアホなんですー」
「言ってろブス」
「電話してきといてなんやなあ!」
「本当のことだろ?」
「なーつーめえー!!」
「てめーの可愛さなんて、俺だけ知ってりゃいいんだよ」
「な──」

急な不意打ちに、さすがに返事にならなくって思い切り赤面して。見えもしないのに蜜柑は誤魔化すようにわざとむせて。
それすら目に浮かぶというように。棗は甘く微笑し、でもわざと呆れた風を装った。

「それくらいわかっとけ、バカ」
「バカとはなんよっ」

売られて即買いのように、そう返したけれど。蜜柑の声に言葉通りの鋭さはなく。

「それで、何か用あったん?」
「用がなきゃ電話しちゃいけねーのかよ」
「─そんなことは、」
「ったく。これだから相変わらずてめーは」
「て、ちょおっ何その呆れたみたいな声は」
「呆れてるから言ってんだよ」
「なんやと棗っ」
「今、」
「………何よ?」
「何してた」
「…今、は。うちは料理してたけど」
「……おまえがか?料理?」
「なんその口調」
「まともなもん作れんのかよ」
「うちかて料理くらいちゃんとできるってっ」
「包丁で指落とすなよ」
「せえへんよ!今だってちゃーんとおいしそうなケチャップライス作ったとこやもんねー」
「へー、そーかよ」
「まあ、これ、誰もおらんし。遅くなるゆうからしょうがなくて作ってたんやけどな」


そらみろ、やっぱ普段作んねーんじゃねえか。
とでも言うようにからかうように蜜柑の言葉に息だけで笑って。 言外のそれを汲み取ったように蜜柑はむっとして喚いてくるのを聞き流して、そんなことじゃなく。家に他に誰も 居ないのか、と棗は真面目に逡巡する。
でも、と続ける蜜柑はけろっと喚いてたこともなかった調子で、食べ物の話をすごく嬉しげ楽しげに、オムライスに するんよと。その次に弾む声でこう告げた。


「作り方ナルナルに教わったんっ」
「………………」


「…棗、どうかした?」
「……おまえ、それ。……まだその呼び方してんのか?」
「えっうん?そやけど?だって、うちかて本当はおとーさん、とか言ってみたいねんけどなぁどうしても呼んで欲しがる んやもん。ナルナルて」
「二度も言うなっつーかそれ、絶対やめろ。気色悪ぃ」
「なんやな、棗までおかーさんみたいなことよう言わはって」


たり前だ、と深く突っ込みたいところをさすがに堪えて、そのくせ嫌でも脳裏にまざまざ思い出されたのは、
だってこんなにかっこよくてキレイなのにお父さんなんてもったいないでしょー、だとか、ボクと蜜柑ちゃんでお父さんだの パパだの言ったらイケナイ感じがしちゃうよねっ、
だとか言ってきらきらと輝かしく笑う鳴海の姿で。
最初はつまり、それは実父じゃないことに対する、ちょっとした謙遜も含まれているのかと勘繰ったものだがいよいよ 鳴海は本気らしかった。
ていうかこんな時に、奴を思い出してしまったことにむかつきを覚えて。不覚にも興が削がれた。だが懸命に持ち直そう とする。


「あーあとうち今、実はエプロンしてんねん!」
「─は、エプロン?」
「そっ、この前一緒に買ったんやけどなあ、ナルナルと色もデザインも全部お揃いのエプロン!でもおかーさんは 趣味悪いて。おかーさんも似合いそうなのに着ないんよ、可愛いのに」
「……そーかよ」


それとなく膨らんだ期待も鳴海、の単語で見事萎える。目の前に居もしないのに、いつも邪魔に立ちはだかられてると思える のは気のせいじゃないだろう。問題は鳴海だけじゃなく、二人がやたら仲が良すぎるとこにあるのだと、いい加減気づき はじめてるが。


「そーゆー棗は何してるん?」
「外だよ」
「外?」


言われて、何となく吸い寄せられるように蜜柑は窓際に寄った。
温かな部屋とは対照的にそこにあるのは、静かに冷た そうに広がる夜の世界。目線をやって、見てみれば窓の外側を幾筋もの水滴が濡らしていることにちょっと驚いて、 声を上げる。


「わー、いつの間に雨降ってたんか!」
「とっくに降ってただろうが。やっぱりアホだな」
「もうそうやって人のことアホアホゆうてなあ!ちょっと、」


言いかけた文句は、不意に鳴った呼び鈴のベルに遮られて明るい部屋の中に取り込まれた。
予想外の時間の訪問者、に少し驚いた蜜柑は、僅かに慌てながら携帯も手に持ったまんま、ちょっと待ってて。とひらりと 身に着けた薄ピンクのレースのエプロンを翻しドアを押し開く。
───開いた先に、他でもない棗本人が立っていて蜜柑は息を呑んだ。


「なつ───どうし、」


驚いて言葉にならなかったのは、思わぬ棗の訪問のせいだけじゃなくて、 棗がしとどに濡れた姿でそこにいるせいでもあって。


なんで傘も持ってなかったん!?とか、そんなんびしょ濡れになってとか、途中で買うとかだとか。
ビックリしすぎて、言いたいことが滅裂にまとまらないまんまに無意識に伸ばした手で、棗の頬に触れれば、 予想以上の冷たさに改めて驚く。だから反射的にタオルを取りに行こうとして、
頬に触れた手を逆に棗に掴み返されて足を踏み出し損ね、蜜柑は戸惑ったように立ち止まった。


「騒ぐほどの事じゃねーだろ」


そう言った棗の表情はしょうがないな、といわんばかりに何だか優しげでよくわからないけれど、 そんな棗の様子はそうそう見られるもんじゃないから思わず蜜柑は言葉に詰まる。


「お前やっぱ、包丁で手、切ってんじゃねーかよ」
「──、切ってなんかないよ」
「切ってるだろ」

そう、断言して掴まれた手を引き寄せられて、それは、と棗が見ていた先を同じく目で追った蜜柑が言い訳しようとする 前に指を、ぺろりと舐められた。

「甘ぇな」
「っ、だってこれケチャップやもん」


もーっ、と漏らした蜜柑は怒ってるんだか恥ずかしいんだか、まあ要は照れ隠しなんだろうが判りやすいくらい、頬を朱に蒸気 なんてさせるから可愛い。ちなみに鳴海とお揃いだとかいう、咽返りそうな事実を差し引いても、ひらりとしたエプロンを身に 付けている姿も言ってやらないけど正直愛らしくて、その後ろに広がる、食べ物の匂いが鼻をくすぐる明るい部屋は暖かくて、 何だか嘘みたいだ。 でも掴んでいる温もりが何より本物だった。幸せってやつを、形にして閉じ込めるとしたらきっとこうなのかもしれないと 思えるほどに、今この全てが止まって永遠になればいいと刹那に望む、そんな、自分が堪らない。でも感じ入る、この瞬間に こそ永遠はあるのかもしれないと。思ってしまった己は、もう引き返せないほどきちゃってるかもしれない。


「─じゃなくてそんなんしてたら、風邪引くやろ」


誤魔化すようにそう言った蜜柑を見て、何か言い返そうと思ったけれど棗はやっぱりやめた。
代わりに、胸の内に沸いた悪戯心のまんまにわざと腕をぐいと引き寄せて、自分よりずっと華奢な体を思い切り抱きすく める。
そのせいで急に濡らされた冷たさに蜜柑は驚いてひゃあ、ともぎゃあともつかない声を上げるから棗は堪えきれず小さく笑って、 もっと色気ある声出せねーのかよ、とからかうように囁けば案の定飛ぶように照れ隠しの文句が返ってきて、 ずっとこんなやり取りを触れ合いながらしたかったと。
じんわりと一つになる温度にやっとさわれた、と安堵して胸は甘くぎゅっとしてどうしようもなくなりそうだ。
うちまで寒いやん、ってだから、ぶつけられた台詞に意地悪く悪戯に笑んで、じゃああっためてやろうか、とけれども それなりに本気で返して、少し身を離すと蜜柑の頬に触れた。
そのまま、驚いてる蜜柑の唇を奪いにいこうと、

───そう。思いきや。
急に勢い良く元気よく玄関のドアがけたたましい騒音をたてて開いて邪魔をした。


「たっだいまあー!蜜柑ちゃん一人で寂しいと思って急い返で帰って来たよ〜ってあれれ?棗くん来てたんだー?」

しかもびしょびしょだね、どしたのー?とかおや蜜柑ちゃん床に這い蹲って何かあった?とか棗にしてみればうんざりどころ かイライラするようなテンションで、いいタイミングで帰ってきやがった鳴海は、惜しげもなくきらきら笑いながら一息に そう言った。


「…いや、う、うち靴紐結ばなあかんくて」
「どれどれ、紐解けてる靴ないねえ」
「…!」
「あれ、蜜柑ちゃん濡れてるけどどしたー?」
「こっこれは雨降っとったから…!」
「そうか、雨ね、うん雨、雨。降ってた」

にこにこと笑ってもろバレな嘘に、よくできましたー、とでもいうように子犬を溺愛するような顔して蜜柑の頭を鳴海はな でて。でも、と棗の方を振り返り嬉しそうにつけ加える。

「なんで髪濡れてんの棗くんだけなんだろうねー?」
「テメェ…」

昔ならとっくに容赦なく燃やし去ってる所だが、さすがに成長した棗はそこまでしなかった代わりにものそい凶暴な視線で鳴海を 睨め付けた。その視線は確実に、わかっててこのタイミングで帰って来やがったろ、とか蜜柑に触ってんじゃねーとか語っていて さすがに身の危険を感じた鳴海は両手をぱっと離す。その守備の良さも正直むかついた。物事に、良い面と悪い面が共存し ているなら確実にこれの悪い面は、こいつの存在だこいつの。


「でも棗くんそのまんまじゃ風邪ひくね。特別にボク一押しの服、貸してあげちゃおっかな?」

答えるまでもなく、じっ。と軽く水の蒸発音が聞こえてすっかり乾いてる棗の様子を見て。 ははっと笑った鳴海は照れ屋さんだなー、とどうやったら行き着くのかわからない解釈で今度は蜜柑を促した。

「蜜柑ちゃんも着替えてきたら?手伝おっかー?」
「死ねよまじで。てめー」
「ちょお棗、そういうこと言うもんちゃうやろ」
「はあ?おめーこそ自覚あんのかよっつかナルに触んな、菌うつるぞ」
「まーた棗はおかーさんみたいなこと言わはってなあ」
「ほんと棗くん、お母さんみたいだねえ」
「わーナルナルもそう思う?」
「ぶっ殺すぞ。おまえもその呼び方してんじゃねえ」
「えっ、ナルナルやなの?棗くん」
「みたいなん」
「うーんそうか。でもちょうどボクもこれ飽きてきた所だし、よーし次は可愛くナルミンにしよう」
「ナルミン!?」

何を思ったか、口の中で響きを確かめるように蜜柑はナルミンを数回呪文のように呟くと、ええかも!と目を輝かせて同意して、

「全然いいかもじゃねーんだよ!」

珍しく声を張った棗はしかしげんなりと、色々疲れたような顔をした。


こんな苦労な日々はまだまだ続いていくわけだが。

















関西弁だの京都弁だのまるっとわかんな、笑
ええと、前サイトの万打時に、ナルが義理パパで吐くほど甘いなつ蜜柑、のリクを下さった方ほんっとうにお待たせ しましたすみません…!!!(ジャンピング土下座でも追いつかない…!!!)
どうぞ誰だよお前ら!と容赦なく突っ込んでやって下さい、ほんとに!!笑
甘いの務まるやら、と言いつつも、もう私的いっそ偏見っていう名の甘い(注:雨の中をムダに濡れて走る→エプロンでお出迎え→そのまま キッチンの辺り(↑じゃないけど)でイチャイチャ)を、楽しくノリノリ表現しきれてないながらも、ぶち込めていったら思うまま 長くなった次第です(笑…)
もうこんなんでよろしければ、感謝と愛の気持ちをむしろ力いっぱい包み込んで(そこいらない)そっと捧げまーす!!!
本当に本当に、ありがとうございました*