危険ははなから承知だった。
所詮選ぶ権利もなかったから、今日も言い渡された任務に携わった。
いつものごとく。こんな時だけは外に出られるけれど、目にする外界の世界にさえ感情を差し挟ませる余地も持たず。


常にあるのは生き死にだけだ。


命を賭してくぐり抜けてきた死線はいくつでも。別にそこには過信もない。

1秒先の危険もわからない闇の中で。いつか自らの体力も知力も力も及ばなくなって、地に倒れ伏すような日が来るだろう。
とは覚悟していた。





負傷して地面に投げ出した体を無理に動かせば、案の定ひどい鈍痛に襲われた。思わず漏れる呻き声を噛み殺してどうにか 仰向けば多少呼吸が楽になる。
気分は最悪だ。
生憎とこんなざまだがアリスの特に子どもは、売買されしかも悪用される事実を知っていたので、捕まらなかっただけ上等 だろうという事にした。
自分をこんな目に合わせた奴には、同じだけの分もきっちりと返してやったし。

幸か不幸か痛みに対しては、あの変態サディスト教師のおかげで堪え性がある。
それでも今日のこれはちとキツイなと思った。
たぶんとうとう、生き様の悪さのツケが回ってきたってとこなんだろう。
何に対するツケかなんて、心当たりがありすぎて知らないが。

まだまだいたいけな、で通じる自分の年齢を客観的に考えると、これって充分児童虐待ってやつだよなと嘲笑したくもなる。 今自分が地に転がっている理由がじゃない。学園のしている事がだ。
だがまさにそれでこそ学園で。普通の法だとか、そんなものが通用しないのが何よりアリスが「スペシャル」であるという 証拠だった。反吐が出そうだ。

だいたいこんな時にそんな事を考えて笑いたくなってる時点で、もう自分はおかしくなったんだろう。
自分が死ぬ瞬間というのは、何度も考えたことがある。
そして次の瞬間によぎるのは、自分が守りたい者たちのこと。
今までの思考の例に漏れず、だから今もまさに思った。

ひたすらおっくうで。薄ぼける思考で。



───まさかこのまま死ぬのだろうか。



長いこと放置されれば、きっとそういう事になるだろう。誰に見つけられるのかなんて知らないが、自分の身が敵に渡った 時点で大切な人の安全は最早守られない。
楽になれるならいっそ、紅蓮の中へ――瞬間、そう、死への誘惑にかられる。




ホントウニコノママ死ヌノカ。






何故か、唐突に訳がわからないくらいに、そうはなりたくないと思う衝動が眩暈のように全身を駆け巡った。
生に対する本能とは少し違う。刹那に網膜に浮かんだのは、あのオレンジ色の髪の、あのバカみたいによく笑う───



なんでもいいから。
とにかく会いてえ、と。




大切な人々はなんとしてでも守りたくって。
そしてアイツは、己の親友と幸せになってくれればいい、って。思うことに違いはないけれども、せめて。今だけは。
思うだけは。
俺のものになってくれなんて腐っても願わない。
誰かを幸せにする事なんて既に適わないこの手で。
だからお前は親友と幸せになって、二人ともまとめてこの身が朽ち果てるまで守り抜くから。

まるで三流詩人並みな言葉だが、朦朧とした今頭もおかしいんだって良しとした。
まだできることがある。
かすかにでも、自分は動ける。
だから。


















ふいに靴音が聞こえた。
聞きなれたリズムを刻む、その相手に決して安堵も喜びも覚えないが。
有難くも迷惑に、黒猫な自分はヤツのお気に入りだったのだとここで思い起こされた。
まるで陳腐な救出劇の、おいしい所を攫っていくようなタイミングにヤツがほくそ笑んでいるというのは、反吐が出そうな くらいわかったが。
…ああ、これで死に損なってまた地獄の日々か。
冗談交じりにも思って。ただそれでも。
守るためには容易に死ねなくって。
何より、死んで楽になるよりも。
生き地獄でもあの笑顔に会いたいのだと。

ただ今はそれだけを、

噛り付くように、ひたすらに切望し続けた。












これで手一杯だったなつ蜜柑(ムズイ) 最後の最後で思い切り趣味に走ってまじ死にたいと思ったなつ蜜柑笑
ていうか、仮面は本当は変態マゾヒストだって疑いませんが(いい笑顔)!