文化祭を前にしたとある日のこと、ささやかな事件が起きた。
特力のクラスに届いたイベント用の衣装が、開封されたダンボールの中
どうみても一つ足りない。それどころか教室中探し回っても見つからないのである。
発注ミスではないことは票を調べた結果確実だし、
最初に数を確認した時も確かに人数分、あったのに、だ。
なくなった品物を調べた結果、女物でそのサイズは一つだけだと発覚すると同時、
はっとしてそれを着るべき人物が名乗りを上げた。
「私のがない」
そう言ったのは安積柚香で、周囲は騒然とする。
お世辞にも学園の人気者とは言えない彼女で。これはれっきとした事件かもと、
ありとあらゆる可能性が全員の頭を駆け巡りかけた時、だがタイミング良く一人の生徒が現れた。
「ナル…っつーかお前っ、何でそれ着てんだよ!」
突っ込みの通り。まさしく、その衣装を身に着けて現れたのは鳴海であった。
衣装のレースとフリルをふんだんにひらひらさせて、ふと髪をかきあげる。
「俺って何でも似合うなあ」
「何でも似合うなあ、じゃねーよ!悦に入ってんなよ!」
「犯人はコイツか!」
「あれは誰のかわかってて着てんのか」
「だとしたら柚香の衣装把握してる辺りさすがとしか言えない」
「ノンノン、把握してたんじゃなくて嗅ぎ分けたんだよ」
「尚更たちわりーよ!」
「まあそれは冗談で、目方でこれ位かな〜って、先輩そんなにスタイル良くないし」
「殺そうか?」
「もうコイツ絶対やべー、いつか犯罪おかすって、柚香さん限定」
「愛情もいき過ぎると変態ね」
「あっは、みんなしてひどいな〜。だってこのフリフリした衣装、
どう考えても先輩より俺の方が似合うじゃん?」
「あんたってほんとムカツクわね!」
「ああでも、何かあのナンセンスな衣装をさらっと着こなしてる辺り、あれが正しいような気がしてきた」
「惑わされちゃあダメよ!この際センスがどうこうとかどーでもいいんだって!
私のサイズが男のアイツに着られてんのがムカツクのよ!」
「ああ確かにそれは大問題だ」
「なぜ着れたかってゆーと、それは愛で、」
「いいから私の脱げよ」
「先輩、こんなとこで大胆ですね★」
「意味ちげーよ!」
「もうこの頭の軽いのどうにかしてくれ」
「つーかコイツ、ナチュラルに馴染んでるけどそもそも特力じゃねーじゃん」
「うわっ、そーだ、帰れよ体質に!」
「まあまあ。そんなこと言うとみんな後悔するよ」
「……、後悔って、何?」
「よくぞ聞いてくれました。つまりは、毎年人気のない特力の出し物も、
ボクが勧誘すればフェロモンにやられて――」
「んなムダなところでアリス垂れ流すなっつのよ!」
「ええ〜何で?」
「何でも!」
「フェロモンいいですよ〜」
「だからンなむだな協力はいらないっつーの!」
「でも先輩の仏頂面の勧誘より、よっぽど役に立つと思うんだけどな」
「ほんと殴ろうか」
「あっは、怖いな〜。その調子でアリス盗んないで下さいね、あっでも俺のハートなら大歓迎」
そこまで言って。瞬間、鳴海以外の特力クラスの全員が凍りついた。
柚香の目がきつく厳しくなるのを見逃さなかった者は、コイツ完全バカだよ
言っちゃいけないこと言ったとひやひやする。
「――ナル、あんたこっから消えて」
柚香の口から冷たく放たれたセリフに、一同はこれはまずいだろと固唾を呑んで見守り。
しかし肝心の鳴海は何を思ったか不敵ににこりと笑ってみせた。
「こん位でぎすぎすしちゃーダメじゃないっすか先輩。こーゆーのは笑い飛ばす位でいいんですよ」
しばらく沈黙が襲ってきた後、ようやく柚香は口を開いた。
「私はあんたのそーゆーとこが嫌いなのよ」
柚香の口調が言葉ほどは厳しくないと、注意深聞いていた者なら気づいたことだろう。
「俺は先輩のそーゆーとこが好きですけどね」
この数年後ナルはほんとにハート盗られちゃってるってゆう(爽笑)