花火が飛び交う夜空もその真下にきらきら燃え上がるキャンプの炎も学園らしく 特殊なアリス仕様らしい。文化祭の後夜祭の、 おハイソ思考とも言える華々しいパーティーだがちっさい頃から 学園に居る鳴海は特に何の感動もなく、むしろ視線をさ迷わせて目当てのただ一人の姿を探した。

こういう社交的な場は苦手らしい彼女らしく、 どこか落ち着かなさそうな佇まいなのをいくらもしないで発見して、 せっかくのドレス姿を遠目にじっと眺め続ける。 どーせならもっと胸元開いた方着てくれればいーのに、とかいう邪心は男として勿論抱いた。
眺めているかそろそろ行こうか、そんな事をつらつら思っていたら呼び止められて、 振り返れば胸元の開いた方のドレスのオネーサンがそこに居たりする。


(あ、センパイよりもナイスバデー)


一応立食パーティーなのに全然食べてないじゃんとか笑って言われながら、 カクテルもどき(あくまで未成年)を勧められてふと、尋ねられた。

「ナルって最後に踊りたい人いるの?」
「…最後?」
「あはは、その調子じゃ全然って感じね」

ていうか、ジンクス信じてなさそうだもんねって言われてああと納得する。
確かにジンクス好きなこの学園にはあるわけだ。ラストにダンスした相手と結ばれるとかゆー。
それが本当ならいくらでも先輩と踊るんだけど、とか、 むしろ見せつける意味でもいいかもしれない、なんて考えている矢先に言われた。

「まあラストダンスに躍起になるナルなんてらしくないし、誰でもいいわよね?」

どこか妖艶に言われていえ今まさに誰でも良くなく考えてましたからって内心で突っ込む。
だから私と踊りましょなんて言われかねない雰囲気を、 お決まりのようにうまい事言って切り抜けてその場所を離れた。


(てゆーか、俺って大部分の人からは誰でもいいように思われてるのか)


日頃の行いが行いなだけに無理ないだろうと言いたい所だけども、 何となくその自覚は鳴海を凹ませるもので、すぐに先輩に会いたくなった。
すでにダンスの始まった人の群れをうっとおしく感じながら遅々として進む。
しかしまあ、こういう時に限ってすんなり行かないもので光栄ではあるけども 前方からキレーな女のコ達に呼び止められてしまうわけだ。

ダンスが始まったのに一人?だとかなんなら行かない?と 声を掛けられるのは笑ってかわしながら、決まってラストダンスは 決まってるの〜と言われるのにはうんざりしだした。


「まさかとは思うけど最後に安積柚香と踊ったりしないでしょ?」
「──何で?」


唐突に言われたセリフに、こればっかりは過敏にすかさず答えた鳴海の反応を、 有り得ない方ととらえ違えたらしい。
女のコらは辛辣に便乗する。


「それはないよね〜あの安積だよ?」
「触らぬなんとやらにって感じ?」
「てかあいつよくパーティーに出て来るわね」
「ちょっと目障りだよねー」

そういって上がる黄色い矯正めいた笑い声。

(女のコのこーゆーやり取りって聞いててキツイよなあ)

と思いつつ鳴海は何を思ったかふと、一緒になってほほ笑んでみせた。
…見る人が見ればわかる、それはそれは氷のような冷たいきれいさで。


「俺キレーな子もスタイルいいオネーサンも好きだけど。
 ユカ先輩を悪く言う奴は男だろうが女だろうが許せないんだよね」

だから失せて、と手を振ると、さっと道が開けた。
つまりは能力を使ったのだが。
まあ最後のセリフなんかどうせアリスで朦朧として覚えちゃいないだろーけど。
そう思いながら人をかきわけかきわけ。

鳴海はやっとのことで彼女の所にたどり着いた。










「セ〜ンパイっ」
「…何よナル」

明らかにまたお前かという感じで見られるがそれを上回る上機嫌で鳴海は笑う。

「うわ、ご機嫌斜め?先輩一人取り残されてるみたいだから俺を待ってるかと思ったんだけど」
「どーせ一人で悪かったわね」
「ハハ、別にそうは言ってないって」

てゆーか、俺だけを待っててくれてればそれでいいんだけど、 っていうセリフを、うかつにか確信的にか鳴海はもらしたのを柚香も聞き逃さなかった。

不意を打たれた鳩のような驚きを、押し隠すようにしてから柚香は鳴海を見る。

だが、鳴海は誤魔化しもせずに柚香の髪に手で触れた。

「…あんたね、あんまりそーゆーことばっかしてるとセクハラで訴えるわよ…」
「えー、先生がするのは許すのに?」

そう言った後で。
柚香が、わずかに頬を赤くしつつ気まずそうに目を逸らすのを見て。

──あ、困ってるな、と気付いた。
というか何もそんな顔しなくても、とも思う。

まーたやってしまった、困らせてしまった、
というのと、
いつまでたっても報われない自分の気持ち。



…ラストダンスは近づいてきている。










今度こそ、茶化すように鳴海は一歩退くと、笑って誤魔化した。



















追いかけてくる女のコたちを避けるように人目に付かない木の上に避難した鳴海は、 ラストダンスの始まった広場を横目に見下ろした。
そこには先輩と先生が踊っている姿があり。鳴海は秘密裏に入手した倍ゆっくり 燃える煙草に火を着けると、あーあと息をつく。
別に最後を譲ったのは、先輩のためであってあんたのためじゃないからなって。 恨めしくセンセーを見遣るけれど、ここからでは全く意味もなくて。













「あーくそ、ジンクスなんてくそ喰らえだよなあ」