スケープゴート
学級委員長なんていう響きのいい気がする役職のいいところはつまるところ、響きだけであって結局は雑用係じゃないか、と膨大な書類の処理に追われながら岬は心中で愚痴った。
こなしたと思っても側から同じだけの量よろしく、とオプション笑顔で積まれる紙の束。
見ていればさりげなくそして絶対、故意的に他の委員のものが混じっていて、おい待てさらっと押し付けてくるなよ。(といいつつも任されるとやってしまうのが岬だったりする)
だがまあそんな事も含めていいとしよう。
いいとしても、問題がひとつあると思う。
くすくすとあでやかな笑い声が聞こえてほぼ反射的に、強張るように岬は身構えた。なるだけ気にとめないようにしようと、もう必死の域で書類書きに努めようとする。
ていうか、これだこれ。
何故に一人教室で黙々と作業してる、はずの状況下に、上級生の女生徒3人が背後で待機しているのか。
っていうかまず彼女達は鳴海の取り巻きのお姉様方だろうが。なのに何で今かんじんの鳴海はいないんだ。
ふっと気配は動いて確認する間もなく、細く白い手が机につかれた。
甘い匂いなんてものがかすめて、大変そうね岬くん、と艶やかに言われればそこはそれ、流石に一健全な高校男子だからドッキリとしてギクっともする。
「こんなにたくさん溜まっちゃって」
「…え」
「辛そうで可哀相」
「いや…」
「手伝おっか?」
「あの、ちょっ、」
てかその囁いてるの、ちょっと待って下さい、
と岬が必死で懇願しようとする前にありがたい事に開放されて、ひらりと気配は遠ざかった。
ちょっとぐったり座り込んでいるのを余所にねえねえどう思う?やっぱりそうかな?などと偉く弾んだ楽しげなやり取りが割り込んできて勘弁してくれと思う。
いや本当、ちょっと頼みますから、とともかく悲鳴じみて思ったのが通じたんだかどうなんだか、
唐突に教室の戸が開いてそこに、
ようやくのこと現れた鳴海の姿を全員が認めた。
「あ、ナルじゃない」
「遅いー」
「ねえナルちょっと聞きたいんだけど、この前言ってた事あれって、ほんと?」
くすくすと花のように笑う上級生をだが慣れた感じで見つめて、鳴海はあああれかと納得したように頷いて、ほんとですよーと愛想良く笑う、つくづく営業スマイルうまい奴だな。
とか感心とも呆れともつかず思っていれば、その視線を急にこっちにくれた。何を思ったんだか、何事かってな位の迷いのない足取りで岬の側に歩み寄ってきて。
そのまま近すぎるくらい近くまで来ると、
唐突に岬の肩に触れて、
耳に溶けるような吐息をかけて、くすぐったい位かすかに唇で触れて耳たぶを甘噛みする。
キャー!と黄色い歓声が上がったのと、岬が椅子から転げたのは同時で、
岬の盛大な反応を見た鳴海は表情を崩して腹を抱えて笑って、
鳴海の無遠慮さよりも、上がる歓声にいやその反応絶対おかしいだろ、と真っ赤な耳を必死で押さえながら、口をぱくぱくさせていれば鳴海は愉しげに言った。
「ほらね、岬ちゃん耳弱点だから」