例えば花とか草木ばっかり可愛がっちゃってオモシロくないとも思わない、って言えばそれは嘘だし。
ちょっと温室で悪戯しただけで怒られなきゃいけないのもやっぱり何だかつまんないし、でも。
「みっさきセンセ〜、てっええ?!どうしちゃったの、岬ちゃん」
温室にいつもみたくご機嫌で踏み入れた瞬間、耳を疑う音量でがんがんと超ハードなロックなんてかかってるもんだからさすがの鳴海もざっと一歩、踏み止まって退いた。
思わず温室を出て外から眺めてみて、やっぱりうん彼の温室だって今一度再確認する。
そうして改めて温室の戸を妙な緊迫感抱きかなりそっと押し開けば、
室内に入るより先に、
今度はすぐ目の前の岬の姿があって鳴海を出迎えた。
「何出たり入ったりしてるんだ」
あんまりにもいつもの調子で眼前の岬はそう言い放ってくれたが、確かに鳴海の聞き間違いじゃない。
しょってる。激しいBGMを岬はしっかと背後に。
「――、どんな新しい趣味に目覚めよーとそれが驚くほど似合ってなかろうと、ボクは何があっても君を受け入れるよ」
「その言い回しで大真面目に言われると何か腹立つんだが」
「えー、だってどしちゃったの急に?」
このいっそスプラッタにおうような音楽は、と、既に大声じゃなきゃ会話が成立しない状況下で鳴海が負けじと問えば、
何やら岬は少し得意げとも嬉しげともとれる顔をして温室全体を示すようにぐるりと見渡した。
「ああ、これか。どうやら音楽を聞かせると植物も元気になるって小耳に挟んだからな」
それでかけてる訳だと、どうだ、と言わんばかり得意げな顔を向けられてみていやいやどうだとか聞かれちゃっても。
まあとりあえずそうゆーことかと納得はする。
思い返せばここ数日も確かにクラシックだのポップスだのと、入れ代わりささやかに有線で流されていたなあと。
あくまでささやかにだったが。
一気にランクアップして激しくなった事に関しては聞くより先に本人がこう言った。
「色んな曲で試してるんだけどな。やっぱりこういうのは振動がいい刺激になるのかと思って重低音的なのにしてみようとCDを買って来たんだ」
振動で音響熟成?まるでお酒?いやいやっていうかまずさすがにこのチョイスはどうかとか心の内で突っ込みつつも、
へえーと胡乱な返事を鳴海はした。
そんな事のために一生懸命CDショップに足を運んだ岬の姿を想像してみると何だか実際……可愛いと思うけれど。
こんな人でも”天才”アリス学園の教員でつまり先駆する研究者で、鳴海みたいにフェロモンとかいうわけわからんアリスじゃあないから、実はあれこれ功績を残してたりするわけで。
誉れあるアリス学園の岬当人が実はこんな草花にバカな人だって知ったら外の研究者は泣くだろうなあ、とぼんやり考えながら鳴海は岬を見た。
「ほーんとに植物バカだなあ岬ちゃんは」
「バカとは何だバカとは。あと、ちゃん言うな」
「ハイハイ、てかそれでも構わないよ、岬センセはどうせいつだって草木が一番なんだから」
「――何が言いたいんだ?」
ふいに会話の雲行きがあやしくなった気がして警戒するような身構える調子で尋ね返す岬に、
別にそういう意味じゃないよと言うように鳴海は淡く笑んでみせた。
そりゃあいつも植物第一で妬ける時だってあるけれども。でも彼からそれを取ってしまったら何も残らないし。――とは残念ながら言えない位に岬を好きな自負も同時にあったが。
ただやはり、功績とか栄誉とかそういう問題じゃなくて、草木が第一でこその岬なんだとよく、鳴海はわかってるからだから。
「植物が一番だっていいよ。それでいつもボクを妬かせてて?」
「──ナル、」
「でもそれじゃあ寂しくなるから、たまにはちゃんとボクに構ってみせて」
そう言ってズルイとはわかりつつもここ一番の綺麗な笑顔で岬の視線を奪って唇を寄せて、
ふいに後ろの曲も盛り上がりに差し掛かったのか、驚くべきめちゃくちゃさで激しいシャウトなんてし始めるから思わずぶち壊れたムードに気が抜ける。
(でもまあ、たまにはこんな調子でもいいか)
だってここまできて引き返す手なんてないし?
そう思って気を取り直して、
腕をまわして交わすのは
──じょじょに深くなっていく溶けるような口付け。