通り掛かった道すがら薄ぴんくに色付く小さな花の鉢を見つけた。
近寄ってみればなるほどそこは花屋の前である。
草花を目にすれば無条件にすぐ岬の顔が思い浮かんじゃうわけで。
あんな無愛想ななりでいつも花を大事そうに愛でる姿なんか可愛いなあ、なんて鳴海は。


日射しは柔らかくて照り返す光は温かくて世界は優しかった。
まっすぐ遠い頭上にある太陽はぬくりと陽光を落として雲には蒼い影が、草木には光と緑に揺らぐ風が。
世界はこんなにもきれいだ、と思う。それは曇って淀み雨が降ろうとも冷たく暗い夜だろうとも、 本当は変わらないことなんだろうけれど。
例えば誰かが傷付いても哀しんでも、時は季節は巡り廻る。雨は止むし花は枯れてもまた芽吹く。 自然は常に躍動し死んでは生き返って。岬が愛してやまないものもまさにそれなんだと。
だから彼は土に触れたり植物を育てたりするのが好きなんだと。
そう、かつて、知った時には正直ジジくさい趣味でつまんない話だなあ位にしか思わなかったのだ鳴海は。
そもそもそれは鳴海の性じゃなかったので。
野に咲く花だか森羅万象の理だか知らないが。
だって色のない虚ろが鳴海の世界であって、それがいつも鳴海の見る全てだった。

──だったのに。

例えば今では、どんな不安に揺らぐ時があろうと巡るこの世界は、きれいだと知ったが故にきっと大丈夫だと 思える、思えるようになってしまった。
岬が持つのは育む強さだけじゃない、移り巡るものをそのまま受け入れるたおやかな強さ、 まさにそれなのであって。
かつて岬は鳴海にもっとよく外を見ろと言ってみせた。
そうやって少しずつ少しずつ、鮮やかに色付くものを与えられて。
温もりも鼓動も眼差しも光も優しさも全て、
岬を通して全部見て、
もう岬を通してでしか見られない。








暫く鉢を眺めていた鳴海は、ふとそれを手に取ると店内に入った。
急にプレゼントなんてしたらば、岬は驚くだろうか喜ぶだろうか呆れるだろうか。
どんな顔だろうと、勿論鳴海は好きなんだけれど。きっと花に対しては愛しげな顔を向けるんだろうなあと思う。
そしてその顔を自分にも向けてくれればいいと思う、滅多にないことだけれど。願わくば。



愛しい人の花のように微笑む顔が、見たいと。