些細なことだけれど変化に気付く、でもそれを言葉にしてはうまく言えない。
言えないけれど、そうと、気付いてしまう位一緒の時間と記憶と育まれるものを共有してきた。
だから岬はほんの少し考えて、何ていうかちょっぴりアンニュイめな鳴海を見て。
聞かなくても察したけれど。
やっぱりあえて言った。
「ひょっとしてあの人に会ったのか」
鳴海は一瞬心ここに在らずの顔を差し向けてすぐに岬へ焦点を結んだ。
その一瞬の上の空に鈍痛が走ったことなんて気付かなければいい。
岬の質問に鳴海は、何だかなんとなく、偽る事でもないからそうだよ、と子どものような単純さで答えたのだ。
「―へえ、彼女元気そうだったか?」
「うん、かなり?」
「そりゃあ。良かったな」
「まあ色々解決して、すっきりした感じだったかな」
「そうか、すっきりした感じか」
「そうそう」
「…、他には」
「?」
「──何かしゃべったりはしたのか?」
「うーん。そんなには」
「へえ、そうか、……」
そもそもがしゃべりベタな岬だからすぐに流れはぎくしゃくとして滞ってしまった。
聞きたいことはこんなことじゃあないのだ。
今更のように、なになに気になっちゃった?と調子に乗る鳴海の様も
何だかぎこちなくってそのことが更に、岬のジレンマを駆り立てた。
そうだとも。気になってしょうがないけれどだからってそれをどう聞けるんだ、
それ以前にだいたい聞いてどうするというんだそれを。
ぐるりぐるりと葛藤のように体内を廻り、でもやはりは。
「あの人と会って、おまえは。どうだったんだ?」
飛び出た言葉は詰問口調のように響いたかもしれない。
でも鳴海は聞かなければ答えないし。
だからどうせなら詰問のように聞こえてしまえばいい。でも聞こえないで欲しい。
何か余裕ないみたいで格好悪いし。でもやっぱりそう聞こえればいい。だって余裕なんてないじゃないか。
「そうだなあ、すごいきれいだと思った。相変わらず」
鳴海は答えて。
代わりに岬がわかりやすいくらい黙り込んでしまったから、
やっぱり罪悪感でしまった気分になってわだかまる。
でも本当のことだからしょうがないし。
いつもみたいに茶化そうと思えば、できたはずだったのに、でも何だか違くて。
だいたいがはなから会ってないとでも嘘をつけば良かったとでもいうのか。
だがそういう問題じゃない気がしたし。嘘ついた所で、どうせあれこれ後から一人考え巡らす
むっつりな岬せんせーには結局バレただろうから。とか言い訳のように並べ立てて、
――久しぶりに会った先輩はやっぱりすごくきれいで居て。
色んな事を越えてそこに在る彼女は、まして。
強く悠然と讃えるべきもののように美しくさえあった。
そう思ったけれど、
でもそれだけだ。
自分でも驚くくらいに、それ以上でも以下でもなかったのだ。つまりは。
そう、言えば良かったのかもしれないけれど、パイプが詰まったようにうまく言葉にできなくって。
「おい、ナル、こっちを見ろよ」
有無を言わさぬ口調に普通やられる鳴海じゃなかったのにまんまと上げた顔で視線は絡め取られた。
かちあう黒と翠、の中に逆さに映り込む翠と黒。
何も差し挟ませるものはないくらいに、鳴海のこの世のものじゃないような翠の瞳が
岬をしっかり映しているのを見て、
刹那衝動のようなものが岬を駆ける。
コノ瞳ガオレヲ見ナガラアノ人ヲ視ルコトガアッタラタブンオレハユルセナイ
瞬間の狂気に恐くなって、まるで鳴海を壊しそうで恐くなって唐突に離れたくなった。
呼んでおきながらついと目を背ける、その仕草を鳴海がどう捕らえたのかは知らないが、
不意に鳴海は言葉をことりおとす。
「岬センセ、ひょっとして妬いてる?」
まさか答えてなんかやるもんか。
そうやっていつも、どんな反応を見せようが浮かべる鳴海の笑顔がどんどん嘘じゃなく
屈託なくなっていったと気付かされることに岬は少しずつ錯綜し惑わされてきたのだ。
…これだからこいつを。
いっぱいいっぱいな少女マンガな二人希望!(アホモ〜!)