少女がそこに越してから一ヶ月余り経った。
果たして長いのか短いのか、
濃密した時間のせいでそれ以上にも思えたし、あるいはそれ以下にも思える。
ここにいる「住人」にすれば彼女のそれはイレギュラーな長さであるらしいと言う。
一ヶ月足らず。あるいは数週間。
今まで、うたかた荘に住んで出て行った人々の在住期間はそんなものらしく。
まあ確かに、一応都会の中にあってこの安さ、実物を見れば築何年むしろ
何十年ですかと聞きたくなる風采。ついでに言えば、うたかた荘という名もなんか、儚げで。
いわく付いてない方がおかしいだろうという話なわけだが。
そういやあ最短で数日とかゆー奴もいたなって「少年」が
話すのを聞いてそうなんだと、少女がわかりやすい位顔を顰めるのを見て、
お前がショック受ける必要ねぇだろと突っ込まれる。
だって、と言いかかった反論は言葉にならず消えた。
ここに住むのは、人ならざる人々か、そういう者たちを相手にしている管理人の男、一人だ。
人ならざる者たちは何らかの未練を抱いてそうしてこの世に在る、
根底には、見え隠れする寂しが、ある気がした。
ここには寂しさが存在していて、と同時にそれを包むような静かな温かさが共存している。
何だか、まるでここの管理人その人みたいに。
普通の人には見えざる者の、既に悪鬼とも呼べそうな世を食い荒らすものたちを相手にして、救い上げて、
それがために世の人たちからは顧みられることがなく孤独で。
いや、正確には孤独とは違うんだろう。ここに住み着く住人たちはふらりと
やって来る者も常に彼を囲んで賑やかだ。
でもきっと。
彼は。いや彼だけじゃなくて、少女も。それからここに居る住人たちも。
人よりほんの少しだけ、ひとりぼっちだったのだ。
学校に遅刻しそうになって廊下に走り出て、何かを踏みつけそうになって慌てて下を見た。
いい加減慣れたことだが、そこに転がって寝ている管理人の姿を見つけて、やれやれと少女は息をつく。
「まあたこんな所で寝てるんですか、明神さーん」
「風邪、引いちゃいますよ?」
声を掛けても揺すっても、たぶん間違って踏んじゃったって起きないだろうって事は承知しながら、
やはり目覚めないその人を見てしょうがないなあと微笑して何かかけるものを探しに部屋に戻る。
次の瞬間にうすく毛布のかかる感触を得た明神はうっすら意識を目覚めさせた。
一体誰だと眠っている意識で思ってそれからああひめのんかと納得して。
久しく忘れていた人の体温というものを思い出す。
同じ空間の中で、呼吸する小さな世界で、
自分以外の温度がそこにあるということ。
別に、常に側になくたっていいけれど。
まるでこれが朧な夢の中のようで。
たぶんこのまま、覚めなければいいと。ほんの僅か、願った思いは、
再び眠りの中に還り──