(ドラマ沿いっていうか映画沿いで、もしまだゲームが続いてたらみたいな設定)
自分は一度死んだのだといつか言っていた。
じゃあ何、今までこうして激烈な知略戦争を繰り広げた相手は実は、男の骸か亡霊だったとでも言うのか。
その男――嘗ては平成の義賊だとか何とか、ばかみたいに世間を騒がせた元天才詐欺師こと秋山に視線をくれてやれば、いつものポーカーフェイスを気取って、複数名に囲まれて何かを話している。
別に聞き耳を立てた訳じゃないけれど、負債を肩代わりしてもらえるなんて、とか、ゲームから救済してもらえるとは、だとか、それとなく会話の一端が聞こえてきて、いやいやいやと突っ込みたくなった。
そっちじゃないよ。確かに男は実行犯ではあるけど、救済だなんて譫言を飽きる位言って心底願って、成し遂げようとじたばた足掻いてたのはもう一人、今は姿が見えない彼女の方だよ。
そう思っていたら、抱きつかれんばかりの勢いで礼を尽くされていた秋山が、ちゃっかり男たちと距離をとりながらも、同じことを言っているのが聞こえて何だか面白くない。
だからもういいか、と腰を浮かしかけて、
ふと、己の視線を感じたのだろうか。秋山がこちらを向いたのがわかって、しまったと思いつつも、元からそのつもりだったみたいな何食わぬ顔を作って声を掛けた。
「ねえ、遅いんじゃない?彼女。賞金分配の話を事務局員とするだけでこんなにかかるもんかな」
このポーカーフェイスに、自分の一石が波紋を投げかけるのはわかっていて。
勿論わざとやったんだけれど、元詐欺師が何故それをわざわざ自分に言う、という目線をくれながらも、
そのくせ幾ばくもせずにこの場を後にするのを見た。
…どんだけ過保護?
「あー、なんかバカらし」
ゲーム終了後の、束の間の安息の時間帯。
なんか弛んで気の抜けた、この変に平和な空気は彼女が作り出したものだけれど、何回か共に戦ってみて慣れた。
だから持て余した時間の中で考える。
一度死んだ、らしい男について。
オカルトの信望者でもないし馬鹿正直でもないから、暗に意味することなど検討がついて、それで、と思う。
己の復讐の黒い焔で男は死に耐え、清らかな少女の手で生き返った。
それ故どんなことがあっても、どんなに自分だけ負債に溺れ、闇に堕ちようとも、救ってくれた少女を忠実なまでに守ろうとしている。
俺にしてみれば、そんなの子供用の30センチプールに溺れているようにしか実は見えないけど。
きっと当事者だから足を取られていることにも気づいてないんだろう。部外者だから高いジャンプ台から見晴らしてるようによくわかった。
誰も傷つくことがない平和な世界を、彼女は単純なまでに望む。
それはあんただって例外じゃないんだから、だからただ一言。
手足が千切れたって死んだってお前を守るよ、的な、騎士きどりな言葉とか態度じゃなくって。お前がいるから最後まで溺れないで、一緒に戦おうと思うよって。
言ってやればいいのに、ただそれだけの事で彼女を心からの笑顔にしてやれるのに。
その権利を、喉から手がでるくらい欲しい奴等が、そこかしこにいる事実に気付かないほど間抜けでもないくせに、理性だか知らない。中途半端な距離を置こうとしてることに、何かムダに苛々とする。
ぺたぺたと子どもじみた足音がしてふと名前を呼ばれた。声の主が誰かなんて、見なくともわかったけれど、それでも我ながら律儀に視線を向ける。
「久慈くん。秋山さん見かけなかった?」
(…何すれ違ってるんだこの人たち)
その秋山サンならあんたを探しに行ったんだよ、と言えば必要以上にオロオロされそうで、その上あらぬ方向に走って行って迷子になりそうで、もーすぐ戻ってくるよ、と適当に言った。あながち嘘でもないだろう。
まるで根拠もないけど、そうなんだ、と当たり前のように丸ごと鵜呑みにして更によいしょ、と何故か隣に座られた。
「久慈くん、ありがとう」
「…なに、急に」
「久慈くんがいなかったら今日のゲーム、勝てなかったよ」
「――別に俺だけの力じゃないし」
「でも、久慈くんの力があったから勝てたよ」
あー、何でこの人はこう、無自覚で無防備なんだろう。人を助けたがるくせにそれのせいで色々困るということには、全然気づいちゃくれない。
そういえば救済した人たち凄い喜んでたよ、と。そんなの毎回のことなのに、いちいち言うまでもなく言うつもりもなかったのに、口をついて出てしまって、
良かった、と笑った彼女の顔は、
よくわからないけれどキレイだった。
やっと遠目に彼の男の姿を認めて、無言で指し示して伝えれば彼女は嬉しそうに立ち上がった。促されるままに、何となく後ろを歩いて、長い髪が風に細く靡くのを見る。
ひょっとして自分は、あの笑顔を見たかったのだろうか。
だとしたら、30センチプールに足を取られかけているのは一体誰の方だ。
冗談じゃない。
そんなの、気付きたくもない事実だった。