他人の考えてる事がわからないから不安になるとある人は言う。
でも例えば、今隣に居る人の思ってる事が全てわかってしまったら人間は生きていけないのだと、またある人は。




ふと見るともなく見た、そんなTVの一フレーズをパーマは思い出して。
いや現にいるわよ人の思ってる事読んでひょうひょうとしてる奴が。
頭の中何でできてるんだか知らないけど、だとしたら相当に図太いんだか、 その上いちいち憎たらしいくらいに相手の揚げ足を取ったりとかあいつは。
平気でしていくような、そういう奴だ。




最近見られるようになった光景のひとつ。
「心読みくーん」とそれがもはや可愛い愛称のように、呼ばわり女の子が集まったりする。
しょっちゅうじゃないがこの所目の当たりにするようになったこの状況に、ついていけず事実、 いちいちすぎるくらいパーマは唖然とした。
だって有り得ないでしょ!
って思うこれが紛れも無い彼女の本心である。
何だか楽しそうにしゃべりに来る女の子たちはあの可愛らしい(と一般的視線で) 形容できる見た目に騙されているに絶対間違いない。
その上そいつの、心を読むというかなり最悪のアリスと、 それを扱う違う事ない趣味悪い性格を。単に知らないだけなのだろうと考えると 同情を通り越して破滅的だなと思った。


…ってなんで、いちいちこんな事思わなくちゃいけないのよあたしが。


そう腹立たしくも呆れるように感じて、どうでもいい、と心の内で呟く。





どうやらこの所、あいつはやたらと人の心を読まなくなったらしい。





アリスの寿命を意識してなのか何なのかはパーマの知ったこっちゃないが、やたらと読むことをしなくなってああやって何やら女の子たちが出張しに来るようになった。異様に不本意な気もするけども。まあその人気だって(ついでに言えばかっこよさも)棗くんとルカくんの比じゃあ、ま・っ・た・く、ないし!


「なんか女心ってやつのピンポイントをつかむのがうまいんだよないいよなーあいつのアリスは」


そうキツネ目がうらやましそうに呟くのを聞いて尚更どーでもいーわとパーマは思った。


加えてある時は通りすがりのどっかの女の子たちが、心読みくんはいつも言ってほしいこと言ってくれるからいいよね〜、とはしゃいでいたのを知り何だそれは!と瞬時に殺意にも似た感情を覚える。あの自己中的な男が、そんな無料カウンセリングみたいな慈善事業でもあるまいし。


だいたい私はあいつに優しい事言われたこともされた事もないわよ。


ムカムカしながら考えて、でもあれ、それってどういうこと?ってふとパーマは我に返る。
幸いにもパーマは、そこまで鈍い子じゃあない。
よくよく考えてみたら、なんかまるでこれって、ちっさい男の子が気になる女の子ほどちょっかい出すとかいうあの法則に似ていやしないかと──



   「ね、パーマ」


不意に呼ばれてパーマはえらくぎょっとした。
驚いた様子が滑稽に映ったのか不審だったのか、心読みは首を傾げで何か挙動不審だよと飄々言い放つ。

「しかも顔赤いね」
誰のせいよ誰の!
と瞬間的に思ったパーマの、その思考をありがた迷惑な事に汲み取ってくれやがった心読みは、えっ俺のせい?といちいち口に出した。

「急に来たからビックリしたんだってば…!」
「ふうん」
「な、何なのよ」
「ひょっとしてなんかアヤシイことでもしてた?」
「なんでそーなんのよ…!!」

怒鳴って、パーマ変な顔だよ、と言いながらあはははは笑うそいつを見て妙に疲れた気がした。
いやだいぶムカつてることに変わりないんだけども。 そんな事よりも、ひょっとしてコイツは私の事を…という迂闊な 想像をしかけた自分に何とも言えない恥ずかしいのと苛立ちとを無性に覚えた。
どう考えたって有り得ない話である。
でなきゃここまでムカツク言動をするはずがないと思った。

「ていうか、何の用よ?」
「ていうか、頭に埃着いてるよ」

猛烈に叫び出したい心境を堪えて自分の髪を振り払おうとした。どうせまた、 パーマは頭にゴミ飾ってるとか笑いまくるに違いないと思うとすでに憎さ余ってまた憎しだ。
だがその前に、心読みの手がふと伸びると、パーマの髪に触れた。

「ん、とれたよ」

ぱっと手を開いて床に落ちた埃と、にっこり笑っている心読みとを呆けてパーマは見た。
アホに映るだろう事に気を回す余裕もなく、ひたすら唖然として言葉も忘れる。

それだけ?というのと反応違うじゃない、が入り交じって、 沸き上がった違和感を何故か押し殺さなければと必死になった。



「……慈善事業ご苦労様だわ」
「素直に感謝すればいいのに」
「うっさいわね。別にそーゆー話してるんじゃないわよ」

言って、女の子の出張集団を見逃さなかったパーマの視線で気付いたのか。はたまたただ読んだのか。
心読みは何かを納得したような顔をした。


「ああ、あれは別にそーゆーんじゃないよ」
「じゃあ何だっていうのよ」
「気になる?」
「っ意味わかんないって言いたいの!!」


いやそこまで怒鳴らなくても。っていう大声でパーマは、だが本気でわからないという 顔をしてみせた事に心読みはちらりと困ったような笑みを浮かべた。
うーん、と唸る心読みはどうせいつもみたいにまともに返答しちゃくれないだろうと パーマは思ったのに、存外真面目な顔をしている事にどうして少し焦る。

「――なんていうか。ただ人の思ってる事がわかったからって、完全に心がわかるわけじゃない、ってわかったのかも」



パーマの事は見ないで、考えに耽ったように心読みの視るものは遠くて。
訳もなくパーマは面食らい、何そんな急に私の知らない顔をするようになったのよって。
次の瞬間に脈絡なく思い出したのは、いつだったか目にしたあのフレーズだった。




――今隣に居る人の思ってる事が全てわかってしまったら、人間は生きていけないのだと




じゃあコイツは、いったい一人で何を見てきたっていうのか。


何故か急に空恐ろしくなって、それ以上に妙に、いたたまれなくなる。


「…ねえ…ひょっとしてあんた、辛かったりしないの?」


ただちょいと鼻が利いたり、早く走れたりするのと違って。
いつも呑気そうに笑ってるけども。
人の心がみえてしまうというのは、本当は───



「うわっパーマが人を心配してる!!」
「…はあ…!?てかっ、何言ってんのよあんた!」
「もうこれは絶対槍が降るかも?」
「ちょっと人の心配をふざけんじゃないわよ!」

声を張るパーマに、槍より怖ーと心読みはへらっと笑ってそして。
また例の集団の中に戻って行く、そのことに、パーマはどうしようもなく何故かまた苛立って。


その直後に彼女が気付いた事といえば、ただ。



あいつの隣に居るのが、自分以外の女の子でも不思議じゃないのだという、
そんな当たり前の事実だけだった。