危ないと思った時には手からすべり落ちていた。
間に合わず下を見れば、鉢は2つに割れていた。
希少価値だと知っている
この所忙しかったのは実際本当で。
例えば文化祭に追われてみたりとか(正しくは突出して自由かつカリスマ的発明家少女
に振り回されたりとか)、試験の準備に追われたりだとか(正しくはあの手この手でカン
ニングしようとする生徒のあしらいに忙しかったりだとか)、
あるいは何かと温室に遊びに来る迷惑千万な某フェロモン教師の相手をしたり、
おかげで遠慮なく生徒まで温室に踏み入れるようになって全く岬にしてみれば
不本意極まってこの上ない事が多々。
つまり重なったため、最近室内の監督不行き届きはしょうがなかったのだが。
さすがに散らかった足元に滑って大事に育てていた鉢の一つを割ってしまったのはショックで、
岬は呻くとそのまま屈み込んだ。
――と、その様子を見ていた無遠慮な生徒の一人、もとい偶然居合わせた今井蛍は、ただ
のアホだわとにべもなく心中で吐いて一帯を見回す。
いい大人が少年じみた顔になる温室も今や。見る限りなんか、正直プチ密林の進化系?
みたいな新しい状態になってて。
「手入れが届いてないのがいけないんじゃないですか?」
常より遠慮ない物言いをする性分な彼女の発言はずばり、岬の内心の急所を突いた。
故にちょっと傷付いた顔のまま蛍を振り仰いだ岬は、
しかし目が合った後彼女が無防備にも見せた表情に吃驚し黙る。
――何で今、今井が傷付いた顔したんだ?
さすがに焦って、フォローの言葉を見つけるよりも先に平素な様子を繕ってみせた蛍に
かけるべき台詞を無くして、
まさか自分の一言で岬がそんな顔をするとは思ってなかったと、蛍が思った事も知らず。
その後立場上不謹慎にも、そんな蛍の表情を見れた事にうっかり喜びかけた岬は、
しばし割れた鉢のショックも忘れかかった。