正しい友達のなぐさめ方





月明かりが射し込む廊下にしゃがみこみながら、なんでこうなったんだろうとハリーはしばし考えあぐねた。


正面の窓を見れば晴れた夜空に星が瞬く、だがそれを宇宙を四角く箱詰めしたみたいに窮屈だと思うのは、
確実に今のハリーの心境が反映されているせいだろう。
先刻までその四角の中を自由に滑走していたハリーは今の窮屈が嘘みたいで、 いっそ空の一部になれてたのかもしれない。あるいは世界の。あるいはその宇宙の。
そうやって脈絡ない想像で時間を食い潰して、
でもやっぱり持て余した。
ちょいと左に目をやればつき当たるのは数十歩先の太ったレディの肖像画。
少し行けば談話室に辿り着ける……のにそうしないのは、
ひとえに同じくしゃがみこんで動かないハーマイオニーがいるせいでもあり。
膝に頭を埋めようが波打つ髪の間から覗く華奢な肩は震えを殺しきれていなくて、
傍から見ても泣いているとわかってしまう。

クィディッチのスパルタ練習を終えて困憊しながら戻ってきたハリーは必然的に泣いている ハーマイオニーと出くわした。
勿論無視することなんてできないから、こうして今に至る。

満点の星空と月明かりの射す廊下で二人きりとかいえばある種ロマンチックな感じもしなくもないが、
既に聞かなくたって原因も理由も察せられたからハリーはうんざりするばかりだ。

「ハーマイオニー」

響いたハリーの声は「泣く女」というものの対処に困り果てて疲れたようでも、 もとより大儀そうにも聞こえた。

「そろそろ寮に戻らない?」
「絶対イヤよ」

ぐずぐずいいながらも返事はきっぱり即答で、頑なにロンが居る空間に戻るもんかと。
そのくせ寮の手前で鎮座し続けている姿は、実はハーマイオニーの逡巡を表してるんじゃないかと思う。
いつも喧嘩したかと思えば仲直りしているような二人じゃないか、とよぎった事はぎりぎり呑込んで、 代わりに溜め息が出た。

「そうまでして鉢合わせたくないんならそれだけの訳があるんだろうけど。 とにかくそのまんまじゃあ風邪引くよ」

事実夜のじめついた廊下の床からは冷気がひたひた忍び寄るようで、
上空を飛び回っても寒くないユニフォーム姿のハリーに実感はないけれどかなり 冷え込んでいるんだろうと思えた。

「別に風邪引いたっていいわよ。いっそぶっ倒れてやる」
「ぶっ倒れ、てハーマイオニー」
「私はぶっ倒れるまでここに居るけど、ハリーは行っていいわよ」
「…あのさ、いい加減二人に挟まれてばかばかしくはなるけど、」

このまま置いてけるわけない、そう言い終わらない内にハーマイオニーはバネみたいな反射で顔を上げると、
猛禽類もびっくりな目力でばかばかしいって何よばかばかしいってとハリーを睨み上げた。
それから放っておいてよだとか行っちゃえとか何とか、怒りながら見事にずらずら羅列して拒絶を 示すようにハリーに背を向けてまたハーマイオニーはぎゅっと顔を埋める。
そのまま呼吸だって止めると言わんばかり泣くのをこらえていれば、
不意にハリーが立ち上がる気配がした。
本当に行ってしまうんだとわかっても、意固地に黙し続けていれば、
急に頬に手があてがわれてお世辞にも優しいとは言えない手つきでハーマイオニーは上向かされる。

「ねえ。二人の間で何があったのかなんて僕は知らないし別に知りたくもない。けど、 もし君がそうしてくれって言うんなら、このまま部屋に戻って君を泣かすロンを殴ってもいいと 思ってるくらいだよ」
「ハリ…それは…」

面食らって正面のハリーを見遣れば彼はあくまで真面目な目をしていて、 ハーマイオニーに妥協させるためにわざと言っているのでもなくまして冗談でも ないんだとわかりすぎるくらいわかった。
だからこそたじろぐのを隠せずに即答する。

「――まさか。やめてだって、親友同士でしょ?」

答えればハリーは何やらひとつ溜め息をついてそれならと。

「今透明マント取ってくるから。被ってた方があったかいし、このままずっと居てフィルチか ピーブスに見つかったら困るだろ?」

そう投げ掛けられてハーマイオニーは暫く黙って。やがてハリーから目を反らし腕に半分顔を埋めると、 明らかにふてくされながら言った。

「ハリーはどうしてどうせなら気のすむまで側に居てくれるとか慰めようとかしてくれないのよ、友達でしょ?」

今度は逆に押し黙ったハリーが、
だが暫くの沈黙を経て何を思ったかハーマイオニーと急激に目線を合わせた。

「慰めるって、例えば、」

次の瞬間、間近でハリーの緑の瞳を見たと思ったハーマイオニーは涙の跡に柔らかく 何かが触れる感触を覚えた。
一瞬遅れてその意味を理解したハーマイオニーは、確かに落ち込んでいたことも忘れるくらい ど偉く驚かされて寸前で転びそうになる。

「…こうとか?」

彼女の頬にキスを落とした張本人は、急激に赤面したハーマイオニーの様子にどこか 愉快そうにして顔を覗きこんだ。
その反応になおさら動揺して挙動不審よろしくじたばたしたハーマイオニーは、 実にやっとのことかすれ声をしぼり出した。


「…私たち、友達よね…?」
「そう。友達だよ」


そっと慎重にそう聞くハーマイオニーに対して、至極真面目ぶってハリーは答えて。


けれどそれ以上ハーマイオニーが何も言えなかったのは。




ほんの僅か、ハリーの彼女に対する本当の気持ちに、









気付いてしまったせいかもしれなかった。