「やあやあナッツメくん」
「て人の名前変に呼んでんじゃねえ」
ほとんど瞬間的に嫌そうなオーラ最高潮にした棗を見て、
あらら取り付くしまもないね、とそれでも至って気にした様子もなくまあ一杯飲もうよ、
ここははりきって奢っちゃうよ☆
って棗にしてみれば何か腹立つ笑顔で鳴海は機嫌良く言った。
「まだ未成年だってかまずてめえと飲む気はない」
「んー相変わらずストレートな毒舌が気持ちいいね」
「…発言がキモイ。だいたい教師が未成年者飲み屋に連れてくるかよ」
「いやいや。棗くんとはそんな公の関係を越えて、そのうちお義父さんになっちゃうからネ」
「…あ?」
誰が誰の父親だよ、と口には出さずとも視線で容赦なく棗が睨めつけるのを全く気にしないで、
鳴海は上機嫌を隠しもせず笑った。
まあ確かに今やこの元変態教師は蜜柑の義父であって。
明らかに楽しんでる感むんむんなので非常にイラつく事この上ないのだが、
鳴海の棗に対する、義息子宣言はひとまず言葉を押し込めるだけの威力はあった。
勿論それ自体の意味にじゃなく、棗と蜜柑の関係性、にである。
「まあ何か食べなサイよ」
「なに命令してんじゃねえよ」
「おや、あーんで食べさせて欲しいの?」
「耳腐ってんだろ」
「へいお待ちぃ」
微妙なタイミングで、カウンター越しにもつ煮の皿が差し出されて見やればおやっさんもなんか物凄い笑顔だ。
「……」
加えてうちのもつ煮は世界一でぃ、と日本以外のあとどこにもつ煮があるんだと思いながらも嬉しそうに言われれば黙ってるわけにもいかず、諦めて一口食べた。確かに旨かったが。
ん〜何だかんだ言って棗くんのそういうとこが可愛いんだよねー嫌がりつつ付き合ってくれちゃう辺りも、
と本人が聞いたら殺されそうな事はここで口に出さないでおく。
で鳴海は結局言った。
「言えばふうふう食べさせてあげたのになあ」
「てめーの髪燃やしてアフロにイメチェンしてやろうか」
「あっは、棗くんたら怖いこと言ってるけど照れ屋さんで可愛い、――あ待って待って!」
鳴海の全力の阻止と、
また絶妙に出された世界一の田楽串と物凄い笑顔に遮られて
棗は至極残念にも出て行き損ねた。
ていうかまた世界一かよいくつあんだよ。
意味わかんねーよこの飲み屋、て思ったがそもそも鳴海の選んだ店なのである意味納得がいく。
所詮はそーゆー意味不明な男だ、元教師鳴海。
そんなわけのわかんない奴をなぜに蜜柑の母親は選んだのかと。正直棗は気が知れないのだが。
──という事を、実は実際本人に聞いてみた事があって。
何でかしらね何か間違ったのよね。
ってにべもないのが柚香の返答だった。
いや何でとか棗にしてみれば知るかよという話だけども。
もうあんまりにも追っかけて来るから避けるのも疲れたのよ。
踏んでも蹴っても、何したって懲りないし、
たぶん私も気が触れたのよ。
そう答えた柚香は、容赦なく羅列する言葉とは裏腹に、
それでもちゃんと惚れてます、っていう顔をしていた事を覚えている。
ただあえて一つ言うならば、「避けるのに疲れた」という柚香の気持ちは、棗にもわからなくもなくて。
あんなにもはじめ、蜜柑の事を遠ざけようとしていた棗だが最後にはもう、
正直コイツから逃げ切れないなと思ったのだ。
というか蜜柑に対する自分の気持ちが。
とにかくこの隣の変な父親きどりは永遠にいけ好かないだろうが、
「おとーさんなんてうちいた事ない!」って自分の前で無防備に喜ぶ蜜柑を見れば
敵わないと思う自分は相当重症なんだろう。
ただ事実その辺の父娘よりも2人は仲が良ろしいため、
棗はまた別にかなり色々とイラっとするのだが。
そこの辺りの見解は柚香も同じらしく何であんたの方が蜜柑と仲いいのよ、とよく食い付かれている。
まあブランクのあった親子関係のパイプに鳴海がなっているのは確かで
そーゆー事も無駄にわかってしまうため、鳴海の人間性に多大な不信があろうが線を踏み越えた発言はしない。
「よーしこの後もう一軒行っちゃいますか」
「誰が行くかよ」
「あっは、嫌よも良いのうち?」
とりあえずこのうざいポジティブ・シンキン男は総無視と決め込み、
他にすることもなくなった今店のおやじのもの凄い笑顔に異様に見つめられて、
出て行くタイミングを計りつつも仕方なく「世界一」らしい田楽をかじった。
…確かにうまかったが。