食べる気も飲む気も何をする気もなくて、置かれた食事はただ僅かに視線を向けただけだった。
生きるための生理活動など最早興味がなく、このまま衰弱してしまいたい。
半身を起して、ぼうと病院の窓の外を眺める鳴海に、どうしたら良いかわからなくて戸惑う自分を叱咤して、岬は食器を手に取った。
スプーンを押しつければ、鳴海は僅かに抵抗を見せたものの、無理やり口を開けさせれば力なく、されるがままに食べ物を飲みこむ。
味などわからなかった。もとより病院食などうまいものではない。
胃が、急激に収縮する。
一人にしてほしくて、弱々しい力で岬を押せば、意図を介したらしかった。
ずるずると居座り続けたそうにしていたが、やがてゆっくりと姿を消した。
見張り用に岬が置いて行った植物だけが鳴海を見ていた。
岬のそういう強引な優しさをよくわかっていたけれど、気にする余裕はなく。
こらえきれずに口を押さえ、胃の中のものを全て嘔吐する。
固形物を受け付けなかった胃が収縮し続け、内臓が軋む。痛み。
どくどくと心臓の音が、耳の奥で鳴った。
───生きている。
のうのうと、自分だけ。まだ。
生き延びている。
守りたかった。誰よりも守りたかった。
この手で、そうしたかったはずなのに、最後の最後まで守られたまま、彼女はいってしまった。
何故あの時自分も死ねなかったのだろう。
何故こんな自分のことなど守って、残して、いってしまったのだろう。
彼女ではなく自分が代わりに死ねばよかったのに。
もしもあの時一緒に外に行くなどと言わなければ、彼女は、俺は、
そして残された蜜柑は──
言葉にしきれない、贖罪と後悔と罪悪と悲しみと痛みがごっちゃになって、
消えてしまいたかった。
もう恋なんて思い合うことなんて、願わないから、
ただただ生きていてほしかった。
それだけで良かった。
死んでしまいたかった。
彼女と同じところに行きたかった。
中途半端なまんまいなくなってしまうなんて、全然先輩らしくなかったから夢じゃないかと思って、
何事もなかったかのように彼女が姿を現すんじゃないかと、願って、
こんな自分を見てバカね、と、昔のように笑ってほしかった。
会いたかった。
ただ彼女に会いたかった。
体に巻かれた包帯に荒々しく指をかければ、ぐしゃぐしゃに解けて、
じんわりと血が滲んだ。
こんな怪我の痛みなどわからない。点滴を打って傷の処置をして、生きながらえることに何の意味があるのだろう。
いつしか傷は薄れても、全身に刻まれた彼女への想いは、記憶は薄れてくれない。
彼女を死なせてしまった、蜜柑を一人残させてしまった、罪は消えない。
病室に息をきらして飛び込んできた岬が、鳴海を抱きしめて、鳴海はわけもわからずその広い胸に縋った。
窓の外の、抜けるように透った青い空だけが、不似合いな位に美しく高く、
そして悲しかった。
あの蒼の中に溶け込んでしまえる方法を、鳴海はただただ考えていた。